おやじのぼやき

日々おやじが思う事。。。。。

島薗進

いのちをつくってもいいですか? 島薗進 NHK出版 2016

図書館本

NHK出版テレビテキスト「きょうの健康」2013-2015を大幅に加筆・再構成

宗教学、哲学、死生学そして近年では福島原発震災に関する被爆の問題にも取り組んでおられる島薗先生の生命倫理とバイオテクノロジーの関係が導きだす未来への危惧、それは私たちの「命」あるいは「心」をどう考えていくかという問題でもある。
絶対正しい答えなど無い、しかし真剣に考えて議論が行われないと市場経済という流れの中で「命」や「心」は確実に利己的な渦に飲み込まれる様に思うのである。

本書はバイオテクノロジーの進歩(もしかすると堕落なのかも)と生命倫理のあり方を考える上で研究者もそして一般の方にも是非読んでいただきたい一冊である。
発展が更なる発展を創造するのか?金融工学が「無限」を想定してのみ成り立つ様に科学も「無限」を信じて欲望のままに進んで行って良いのかを考える時期はもう過ぎてしまったのだろうか。
人間が自然を管理・征服できると勘違いさせる科学の進歩が果たして未来に有効なのだろうか。



備忘録メモ
1996年 クローン羊のドリー誕生
治療(セラピー)と増進的介入(エンハンスメント)の違い 
欲望によるエンハンスメント 出世前診断、デザイナー・ベビー
ADHDの子供に対する向精神薬投与の是非
スポーツ選手の身体強化とエンハンスメント 境界線はどこに?
治療を超えるバイオテクノロジーの利用は?
子供は授かるもの、人口妊娠中絶の宗教学的、民俗学的世界的な違い
「いのちを選ぶ」ことを進める医療の未来は?
「種」のありかたを変える優生学 スエーデン等断種1970年代半ばまで。ナチス、日本、ハンセン病対策 「役に立たないものは生きる権利がない」という思想
1978年 イギリス 試験管ベビー
2012年 山中教授ノーベル賞 iPS細胞(2006年、 多機能細胞(本書では万能細胞)
ヒトES細胞 1998年 アメリカ 2005年 ヒトのクローンの作出禁止
キメラ問題(たとえば豚の体内で人間の心臓を育てる)と「人とは何か」?
生殖細胞の作製(マウスではすでに精子と卵子への誘導分化成功)
遺伝子レベルへの介入(エンハンスメント)は新しい優生学 幸福に寄与?
予測が出来ない科学研究の帰結 「そこから何ができてしまうのか」
2015年4月中国 ヒト受精卵の遺伝子改変 ゲノム編集技術
バイオテクノロジーがもたらす未来 1932年「すばらしい新世界」ディストピア小説
発展がさらなる発展を生み出し続けるという資本主義の原理
過剰な医療を押しとどめるための議論
ブッシュ大統領 大統領生命倫理評議会 報告書「治療を超えて」レオン・カス、マイケル・サンデルら
「授かり」「神様の恵み」被贈与性(giftedness of life)  予期せざるものを受け入れる姿勢(openness to the unbidden) サンデル
「いだだきます」「ごちそうさま」「ありがたい」「もったいない」「おせわになる」手を合わせる、感謝や謙虚さ 
人間のもつ三つの徳あるいは価値観(倫理性) 「謙虚」「責任」「連帯」
授かりもののいのちを、ありのままに尊ぶ いのちの倫理 ここには宗教や文化の多様なあり方
欧米的ないのち観の枠組み
 いのちの萌芽を壊すことの是非
 いのちの始まり 中絶をめぐる主張の相違 女性の権利との絡み 避妊の是非
日本におけるいのち観の枠組み
 中絶に寛容 胎児の処理問題(一時期100万体を超える) 凍結余剰胚の廃棄
 江戸時代の規制や制限 300年近く比較的平穏 人口の増大を抑え、海外進出も無い
 浄土真宗は 中絶、間引きの禁止 農業よりも商工業に係わる傾向 移動型 移民
 人口増加は社会の恵みであると同時に混乱の要因にも。共同体としての倫理観
 水子供養 1970年ごろから広く行われる
 民俗学的には「殺す」ではなく「生まれる前に帰ってもらう」
 つながりの中でのいのち

いのちの終わり 脳死をめぐる議論
脳死臨調 1992年 脳死による臓器移植を認める 脳死を人の死とするこをは疑問がある(付記)
一人称、二人称、三人称の死 柳田邦男氏の次男の自死から。養老先生も人称による死を書いていましたね。

人が自由な存在として生きるための根幹関わる”授かりものとしてのいのち””恵みとしてのいのち”という概念が失われたり、軽んじられたりすることがないように、バイオテクノロジーによってもたらされるエンハンスメントに対しては慎重でなければならない。サンデル

「個としてのいのち」に焦点をあてる従来の西洋由来の生命倫理の議論に「つながりのなかのいのち」という概念を加えることで議論をより深めていくことができるのではないか。島薗進




倫理良書を読む 災後に生き方を見直す28冊  島薗進 弘文堂

倫理良書を読む 災後に生き方を見直す28冊 | 弘文堂


読み応え最強モードでしょうか。
挫折しそうですが、ゆっくり頑張ります。

備忘録として読んだ本(読みかけ)は太文字


I 科学の力と限界
  ●C.P.スノー『二つの文化と科学革命』
  ●ロベルト・シュペーマン『原子力時代の驕り』
  ●池内了『科学の限界』
  ●影浦峡『信頼の条件』


II ともに生きる
  ●原田正純『水俣病』
  ●レイチェル・カーソン『沈黙の春』
  ●鬼頭秀一『自然保護を問いなおす』

  ●枝廣淳子・草郷孝好・平山修一『GNH(国民総幸福)』

III 責任と赦し
  ●カール・ヤスパース『戦争の罪を問う』
  ●吉田満『「戦艦大和」と戦後』
  ●ジャン・ヴァニエ『暴力とゆるし』
  ●加藤陽子『戦争の日本近現代史』
  ●高橋源一郎『非常時のことば』

IV この世の務めを超えるもの
  ●内村鑑三『後世への最大遺物』
  ●竹内好『魯迅』
  ●加地伸之『儒教とは何か』
  ●竹内洋『教養主義の没落』
  ●安冨歩『生きるための論語』

V 悲しみとともに生きる
  ●橋本峰雄『「うき世」の思想』
  ●宗左近『小林一茶』
  ●中野孝次『風の良寛』
  ●小此木啓吾『対象喪失』
  ●竹内整一『「かなしみ」の哲学』

VI 公共哲学の方へ
  ●山脇直司『公共哲学からの応答』
  ●ウルリッヒ・ベック『世界リスク社会論』
  ●アマルティア・セン『グローバリゼーションと人間の安全保障』
  ●マイケル・サンデル『完全な人間を目指さなくてもよい理由』
  ●イマニュエル・カント『永遠平和のために』



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