アイヌ・琉球民族の遺骨「盗掘」 かたくなに謝罪しない学会の言い分 「先住民族」を尊重しない人類学の傲慢:東京新聞デジタル
科学(学問)という傘の下で犯罪に加担した人々がいる。
差別や分断を生み出した責任は学者(学会)にあるのは明らかです。
東大人類の教授であった尾本氏は山極氏(元京大総長)との共著の中で、アイヌの遺骨収集は
間違っていたと話している。
以下記事
先住民族の研究倫理指針を巡り、日本人類学会など研究者側とアイヌ・琉球民族が一堂に会す集会が14日、札幌市内であった。ただ、遺骨を「盗掘」したことへの謝罪はおろか、琉球民族を先住民族と認めない姿勢に研究者との溝は深まるばかり。世界では先住民族の自己決定権を重視した研究はもはや常識だ。世界の潮流と真逆の方向へひた走るこの国の「学問の自由」はこれでいいのか。(木原育子)
◆アイヌ側の関係者は「誠意ある回答」を求めたが
「難しいこと言ってるわけじゃない。遺骨をあるべき姿に戻して謝罪してくれって言っているだけだ」
14日に開かれた集会。研究者との議論は平行線だった=札幌市内で
チャランケ(集会)を主催したアイヌ民族の木村二三夫さん(75)が切々と訴えた。集会名は「アイヌ ネノ アン アイヌ」。「人間らしい人間」との意味だ。「誠意ある回答を」との願いが込められた。
集会は、今年4月に公表された研究倫理指針の最終案がきっかけだ。アイヌ民族の自己決定権を排除し、研究ありきの姿勢に批判が相次ぎ、木村さんらは5月末、最終案を示した日本人類学会などに、過去の謝罪と、国が示す遺骨返還ガイドラインの廃止と見直しを求めて質問状を送った。度重なる強制移住でほぼ全てのコタン(集落)が解体された中で「(返還に必要な)申請はハードルが高すぎる」とし、アイヌ民族側に「慰霊」を求めることにも「加害者も被害者も一緒に弔うことが和解の始まりではないか」と提案した。
先住民族と遺骨問題 アイヌ民族の遺骨は1880年代から1970年代に研究者が「収集」した。北海道大など全国12大学と博物館など1800体以上。国は2014年に遺骨返還ガイドラインを示したが難易度が高く、多くは慰霊施設に「集約」されている。琉球民族も研究者によって遺骨が持ち去られている。国の要請で倫理指針策定の議論が15年から始まったが、まとまっていない。
◆返還ガイドラインの見直し、学会で分かれる
回答はどうだったか。
日本人類学会と日本考古学協会は「謝罪は、謝罪すべき事項や範囲、立場などさまざまな意見がある」とし、「国の返還ガイドラインは慎重な議論を経て策定された」と見直しを否定。日本人類学会で東京大の近藤修准教授は「謝罪についてはそれなりに議論はしているが、過去の個人の行いに対して学会が責任を持つのかなど意見の相違がある」と否定し、日本考古学協会で東北大総合学術博物館の藤沢敦教授は「協会は1948年に発足した。自分たちの学会がなかった時代のことも謝罪するのはちょっと違う」と続いた。
アイヌ民族の墓標「クワ」について説明する木村二三夫さん=2023年9月、北海道平取町で
一方、4月にすでに謝罪を表明した日本文化人類学会は、国のガイドラインの「改正に向けて努力する」と回答。九州大の太田好信名誉教授は「アイヌ民族の怒りが学問への拒絶反応を生み出しており、向き合わなければならない。3学会で統一見解をと思ったが、どうしてもできなかった」と述べ、他の2学会との違いを鮮明にした。
◆研究が前提なら「協力したくない」
2学会の姿勢に、集会で浦河町のアイヌ民族、八重樫志仁(ゆきひと)さん(61)は「アイヌ研究を続けていく前提だ。あなた方には協力したくない」と切り出し、日高町のアイヌ民族、葛野次雄さん(70)も「夜に墓を掘って頭蓋骨を持ち去り脳みその大きさを調べ、アイヌ民族の尊厳って何なのさ」と怒りをぶちまけた。樺太アイヌの田沢守さん(69)も「遺骨を慰霊施設というコンクリートの中に置かないでほしい」とにじり寄った。
日本人類学会の近藤氏が、10月にあった学会の大会抄録集で「(同学会が)格好の攻撃対象とされている。今後、アイヌ人骨研究を続けていくにあたって心ない攻撃に遭うだろう」などと記したことにも批判が相次いだ。アイヌ・琉球民族側は2学会に対し、考えを改めない限り、今後の研究への協力を拒否する声明を取りまとめる予定だ。
◆琉球の関係者も「命尽きる前に解決を」
集会では、琉球民族の亀谷正子さん(80)も講演した。亀谷さんは琉球王朝を創設した第一尚氏の子孫で、1929年に京都帝国大(京都大)の研究者が第一尚氏の「百按司墓(むむじゃなばか)」(沖縄県今帰仁村)から遺骨を持ち去ったとして遺骨返還を求めた訴訟の原告だった。
琉球民族の遺骨返還への思いを切々と語る亀谷さん=14日、札幌市内で
「異国に捕らわれの身になって、子孫との交流も途絶え花も手向けられず、どんなに寂しい思いをさせたかと悲しくなった」と落涙し、「京都大と日本人類学会が人の心を取り戻すことはあるのでしょうか。命尽きる前に一日も早く解決してほしい」と訴え、アイヌ民族らの拍手に包まれた。
訴訟は大阪高裁が2023年、請求は棄却したが、原告らを「沖縄地方の先住民族である琉球民族」と認定。「まもなく遺骨持ち出しから100年を迎える。今この時期に関係者が話し合い、解決へ向かうことを願っている」と付言した。
◆先住民族の扱いも対応が分かれて…
今回の質問状では、琉球民族も先住民族として扱うよう求めたが、日本人類学会と日本考古学協会の2学会は「アイヌ民族に限定したい」と拒んだ一方、日本文化人類学会は「区別なく認められる」とした。
琉球民族で龍谷大の松島泰勝教授は「先祖の遺骨を返さないのは琉球民族への明白な人権侵害だ。2学会の姿勢は差別を正当化する民族否定でありえない」と指摘。「和解の手をアイヌ・琉球民族から出しているのに、2学会はその手を振り払う回答で、独善的で特権的で日本政府と同じように話し合いにも応じない姿勢が表れている」と話す。
◆「真摯な対話という視点が大きく欠けている」
世界のアカデミアでは、先住民族を尊重するのは当然だ。世界最大の米国人類学会の研究者は2023年6〜7月に来日し、琉球民族とアイヌ民族から聞き取りを実施。今秋に世界の先住民族の現状をまとめた報告書の表紙に「百按司墓」の写真を使い、琉球民族も先住民族だと明示した。
米国人類学会の報告書の表紙になった百按司墓=2019年11月、沖縄県今帰仁村で
米モンタナ大の瀬口典子客員教授(生物人類学)は「グローバルな学術潮流は被害を受けたコミュニティーとの真摯(しんし)な対話だが、2学会はこういった視点が大きく欠けている」と批判。
今回の集会で、明治期に墓地を掘り返して多くの遺骨を収集した東京帝国大医科大(現東京大医学部)の小金井良精(よしきよ)の銅像が東大内に設置されていることも疑問視されたが、日本人類学会の近藤氏は「気に入らないかもしれないが、アイヌを研究した歴史上の事実は変えられない。撤去の必要性はない」と突っぱねた。
だが、著名な人類学者アルフレッド・クローバーにちなんで名付けられた米カリフォルニア大バークレー校の人類学棟「クローバーホール」が、アメリカ先住民の排除と抹消を想起させるため、2021年に名称を変更した事例もある。
◆「学問の自由を根拠に遺骨研究を正当化している」
前出の瀬口氏は「日本の人類学は今も日本人の起源が研究の主流だ。世界では植民地時代の研究手法や遺骨問題に向き合う動きが進むが、起源論への固執が、脱植民地化に踏み出す障壁となっている。『学問の自由』を根拠に遺骨研究を正当化することが遺骨の返還を妨げている」と話す。
2学会と先住民族の溝は深まるばかりだ。北海道大の小田博志教授(文化人類学)は「歴史をどう踏まえるかが重要だ。明治2年の北海道併合と明治5年の琉球処分は日本による植民地化のプロセスだ。その中で人類学者による遺骨の収奪が起こった。今回の議論が行われた場所の近辺に、アイヌコタンがあったことに思いをはせた研究者はいるだろうか」と疑問を呈す。
琉球民族の遺骨返還への思いを切々と語る亀谷さん=14日、札幌市内で
和解の道はあるか。「研究倫理指針における倫理とは本来、自分の側の事情を置いて相手の立場に立つことだ。相手の痛みを知る深い対話がなければ本当の謝罪にならない。当事者の声を真摯に聴き、それに応じることから全ては始まるのではないか」
◆デスクメモ
人は「知りたい」という欲求を抑えられない。それが学問を深化させ、人類の発展につながってきた。でも、人の尊厳を踏みにじってまで得られる発展や研究成果に胸を張れるだろうか。先住民族の声を「心ない攻撃」と被害者然と受け止めているようでは、その溝は絶望的に深い。(岸)