図書館本 知人が編集しているのもうれしい。鎌倉図書館に購入してもらった本

本年度のベスト3に入るであろう良書 そしてダムや治水問題を正しく理解するためにも。

洪水と水害をとらえなおす 大熊孝 農文協 2020

大熊先生の本は何冊か読んでおり、自然との共生という態度は哲学3人塾(内山節、鬼頭秀一、大熊孝)の会でもお聞きしていたので本書も非常に分かり易く、敢えて結論からかけば大熊先生の自叙伝的治水論としての河川工学とでも言うべきでしょうか?

まさに令和2年7月豪雨での熊本県球磨川の水害を見聞きして、川辺川ダムがあれば的な報道がされる違和感を感じざるを得ません。ダムか堤防か?という工事ありきの防災対策が想定外な降雨量に対してまったく意味をなさない治水計画にも思えます。

本書は自然災害や河川工学の歴史を検証し、100%の正解など存在しない水害対策に関して多くのヒントとこれからの施策の在り方を提示しています。

最も基本的な事は、人類は自然を征服したり管理しようとする思想こそが人類を破滅に導くという事なのでしょう。自然に生かされ、自然との折り合い(居り合い)の中で、いかに人的被害を最小に出来るのか?そんな事を本書は教えてくれます。

備忘録的メモ
洪水は必ずしみ水害を導かない。下流部を肥沃にしてきた歴史的事実
白洲次郎が東北電力会長時代のダム 魚道を作るという発想は皆無
2008年JR東日本宮中取水ダム(長野 山手線用電力)コンピュータープログラムによる不正取水発覚
河川工学の川の定義「河川は、地表面に落下した雨や雪などの天水が集まり、川や湖などに注ぐ流れの筋(水路)などと、その流水を含めた総称である」
大熊氏が学生に教える川の定義「川とは山と海とを双方向に繋ぐ、地球における物資循環の重要な担い手であるとともに、人間にとって身近な自然で、恵みと災害という矛盾のなか、ゆっくり時間をかけて、ひとの”からだ”と”こころ”をつくり、地域文化を育んできた存在である。
水害調査心得 現場調査なくして発言権なし
ダムによる堰上げの影響 2011年7月 只見川水害
ダムの洪水調整機能の精査の必要性 河川改修工事との工事費比較(ダム工事の高額)
土木機械力の質的・量的な進歩により堤防化の迅速で安価な工事が可能に
基本高水とダム計画の乖離 八ッ場ダムを含むダム群 治水計画は絵に描いた餅
ダムの排砂問題(黒部ダム排砂による富山湾の魚介類死滅)から多くのダムの堆砂問題が浮上(想定外の量的堆砂) 穴あきダムの登場
八ッ場ダムの洪水調節計画は変更されていた
信玄堤は本当に信玄が作った? そして徳島堰は甲斐国志にはまったく登場しない。
将棋頭(六科)、堀切(竜岡台地)価の可能性あり
現在の日本の治水計画は、表向き平等性を担保することを前提として、大きな基本高水を設定し、ダムによる洪水調節と河道の洪水流下能力を組合せで、計画洪水を一滴も漏らさせずに海まで排出する計画となっている。(堆砂、環境問題は考慮されず)
堤防強化の経済性(安価)
社会的共通資本としての川 (宇沢弘文との共著) 
 社会的共通資本:自然環境、社会的インフラストラクチャー、制度資本
地域・都市における自然観と国家の自然観との対立


洪水と水害をとらえなおす: 自然観の転換と川との共生
孝, 大熊
農文協プロダクション
2020-05-28