道路隆起の原因は?詳しい説明も情報公開もしないJR東海 リニアトンネル工事の真上で発生 専門家の見解は :東京新聞デジタル
リニア中央新幹線トンネル工事の影響によって昨年10月、現場のほぼ真上にある東京都品川区の区道が隆起した。年末になり、JR東海は「機械内に空気がたまりすぎて地表に漏出した」として、空気の管理体制を見直すと発表した。だが説明を裏付ける数値は一切示されておらず、いまひとつ信用しきれない。第三者の専門家らに取材し、再発防止策の実効性や課題を考えた。(中川紘希)
◆「地下の掘削機にたまった空気が地表に移動した」説
JR東海の説明はこうだ。地下約80メートルで、シールドマシン(大型掘削機)が水平方向に掘進していた。マシン内にたまった空気が外に漏れ出し、地中の亀裂や撤去済みの建物のくいの跡などを通って地表付近まで移動、舗装面を押し上げたとみられる。再発防止策として、空気を抜く頻度や量を見直す。適時、空気を抜くため、兆候を検知するアラート機能を導入する。
リニア工事によって道路が隆起した現場。既に舗装が直され段差は解消された
「対策をすることで、同様の事象は起きないと考えている」。そうした同社の見解に対し、専門家は慎重な評価にとどめている。
静岡県のリニア工事の環境対策を監視する国の専門家組織の委員、大東地盤環境研究所(名古屋市)の大東憲二所長は「一定程度効果がある」とみる一方、都市部では地下構造物が多く空気の通り道が他の場所にも存在しており、「空気漏れを完全に防ぐことは技術的に困難だ」と話した。
◆第三者の検証のために「数値」が必要なのだが
大東氏は、道路隆起を含めた問題が起きた場合に迅速に対応する必要性を強調する。「JR東海と行政がどう情報を共有し、どう対処するか。その管理フローを事前に構築すべきだ」
ちなみに静岡県では、大井川の水資源減少などのリスク別に、JR東海が県にいつ報告し、どう対応するかを事前に定めている。
東京都環境影響評価審議会委員で東京大大学院の愛知正温(まさあつ)講師(応用地質学)は「空気量の制御は改善策になると考えられるが、数値が示されておらず、どの程度有効なのか詳細は分からない」と語る。
「適切に情報を公表し、第三者が検証できるようにして市民の理解や信頼につなげる姿勢が重要」とし、マシンが岩盤にかけた圧力の数値や空気量などの開示を期待した。「こちら特報部」はこれらの情報開示をJR東海に求めたが「具体的な数値で示すことは難しい」などと応じなかった。
◆「重大事故になった可能性もあった」…監視態勢は十分か
リニアのトンネル工事を巡っては東京都町田市で2024年10月に地下水と泡が噴出。JR東海は「地下水や空気の通り道があるなど複数の条件が重なった」とし、工事を再開した。
品川で空気漏れが起きても「原因は異なる」と強調する。愛知氏は「今回は地質条件よりも、施工管理上の問題が主だったという総括かもしれないが、地中の想定外の経路を通じて漏えいしたという意味で類似点もある」と評価する。
リニア中央新幹線のトンネル工事の現場付近で隆起した道路=2025年10月
その上で、地上への影響を監視する態勢の強化を要望。「隆起の時間や場所がずれれば、車や鉄道の人身事故が起きたり、酸素濃度が低い空気が地下室に充満したりして重大事故になった可能性もあった」とし、こう戒める。「今回は、あり得たシナリオの中で非常に被害が軽く済んだ事例だったと思う。真摯(しんし)に受け止めて対策を講じてほしい」
◆「気泡剤」使用の影響を指摘する谷本親伯名誉教授
工事の抜本的な見直しや中止を求める声もある。
大阪大の谷本親伯(ちかおさ)名誉教授(トンネル工学)は「JR東海は、機械内に空気がたまる根本的な原因に対処しようとしていない」と指摘する。目を向けるのが、気泡剤を土に混ぜて掘進と搬送をしやすい状態にする工程。うまく混ざらず土砂が切り羽(マシン先端)下部に沈殿し、空気が分離して上部に滞留したとみる。
「気泡剤を使えば、どんな地層でも、気体や地下水が地表面へ漏えいする可能性が存在し、事故は発生しうる」とし、工費が高くなるとしても気泡剤を使わない工法を採るよう勧めた。
なお第一首都圏トンネルの4工区の進捗(しんちょく)を見ると、2工区の掘進速度はひと月で100メートルや200メートルを記録し、早く進んでいるといい、「気泡剤使用の有無で差が出たのでは」と話す。
◆「掘ってみないと何が起きるか分からない」
地盤の調査やデータ解析をする環境地盤研究所(東京)の徳竹真人氏は「リニア工事は地盤に関する事前調査が不足しており、町田や品川のようなトラブルの要因になっているのではないか」と語った。
報道陣に公開されたリニア中央新幹線品川駅の工事現場=2024年11月4日(中村千春撮影)
道路隆起による周辺への影響に関し、JR東海は「インフラ設備に影響は出ていない」と説明した。ただ40メートル以深の「大深度地下」でリニアのような巨大なシールドマシンを使う工事は「実績が乏しく課題が不透明」(徳竹氏)という。
「トンネル技術者は『掘ってみないと何が起きるか分からない』とよく言う。それでも工事が認められるのは、十分な事前調査や解析があってこそだ。今のままでは認められない」
◆JRが答えないなら「国が問題意識を持って検証すべきだ」
JR東海は、専門家でつくる「トンネル施工検討委員会シールドトンネル部会」に助言を受けて工事を進める。事業者に近い意見を聞こうと、部会長である長岡技術科学大の杉本光隆名誉教授に大学を介して打診したが、部会長の立場を理由に応じなかった。
JR東海の再発防止策などについてただす議員や市民ら=2025年12月
昨年12月には東京・永田町の参院議員会館で集会があり、共産党の議員や市民らがリニア事業への懸念を国土交通省に訴えた。
JR東海に対応を委ねる姿勢の国交省担当者に対して、町田市の市民団体「リニア中央新幹線を考える町田の会」事務局の亀山俊平さんは「搭載するアラートの設定値などをJR東海に聞いても答えない。対策が適正か判断しようがない。国が問題意識を持って検証すべきだ」と口にした。
◆2月に予定する説明会 なんと「制限時間つき」「再質問不可」
同社は2月1、2日に品川区内で住民説明会を開催し工事を再開する方針だ。亀山さんは、両日ともに一斉説明の時間が60分に制限されていることに「質問時間が取れず疑問が解消されない」と批判する。
非難されたのは「不親切」という同社の対応も。工事事務所で質疑応答を求めようにも4人以下の訪問は認めないほか、事前の質問送付はFAXやメールでは受け付けず、郵便や電話になっているという。
リニア問題を取材するジャーナリスト樫田秀樹氏によると、JR東海の説明会では質問は1人3問までで再質問も基本できない。
「説明会を開催したという事実だけで『住民の理解が深まった』と発表する。不誠実だ」
閉鎖的な対応を改めさせることはできるのか。
岐阜県御嵩町が開催したリニアのトンネル工事の残土の処分場計画を議論するフォーラム=2022年
樫田氏は、住民、JR東海と自治体の代表者、有識者が対等に議論する「円卓会議」の開催を提案する。
岐阜県御嵩町は、リニアのトンネル工事に伴う残土の処分場に関する計画を巡り、そうした立場の参加者が協議する場を設けたことがある。「説明会では、JR東海が一方的に言いたいことを言うだけで溝が深まるばかりだ。本当の意味での対話をする必要がある」と話し、品川区が開催を主導することを期待した。
◆デスクメモ
文中に登場している地面の隆起。かなり怖く感じる。場所次第では民家が傾き、床にビー玉を落とすと転がる欠陥住宅のようにならないか。水道管などはどうか。安心を裏付けるのが丁寧な説明だ。安全安心に努めるべき鉄道事業者なら理解するはず。やるべきことをやりませんか。(榊)








