文系、理系関係なくお薦めな一冊。特に文系方面。

これまで読んだ新書のなかでもっとも多くの付箋が付いた本
多くの方に読んでいただきたいと思う。科学を正しく理解するために。

信州伊那谷で幼少期を過ごした唐木氏が見て来た日本の進歩、発展から得られた科学的考察とでも言ってよいかもしれない。(排他的だが安心社会があったと回顧している、そしてこれからの安心社会をどう築いていくか)
もちろん、同意出来ない部分もあるのは言うまでもない。(個別に書き込んでいます)

不安、怯え、疑心、
どうしてその様な感情が起こるのか?
安全、安心の前にあるものは信頼だと言われた方がいた。
3.11原発震災で国という組織、科学者という権威がいかに信用出来ない、信頼できないかと言う事を多くの国民は感じたと思う。
ゼロリスクは存在しない、そんな普遍な社会からいかにリスクを減らすか(リスク最適化)が、嘘をつかない、ズルをしない科学者や政治家に求められているのだろう。

備忘録メモ
第1章
将来への不安、「始皇帝」が不老不死という嘘に騙された源流。現代人全員が始皇帝化。
逃げ出すことが出来ないリスクへの不安の蓄積=ストレス、怒り、恐怖に。
直観的判断:危険情報を無視しない、利益情報を無視しない、=安全、安心情報は売れない社会
成功体験と先入観で記憶されていく。先入観が間違っていると問題が生じる
楽観バイアス:自己防衛反応だが、自分だけ大丈夫という根拠なき思い込み
聞かれて出てくる不安:農薬への不安等、野菜すべてを無農薬にすべきという運動はない。
信頼社会の重要なところは相手が信頼できるか否かを見分ける能力 不確実性社会 不安社会
閉鎖的安心グループ(自分達の正当性を相互確認)の危険:原発問題、低線量放射線問題、TPP問題、ヘイト・スピーチ問題等

第2章
科学は論理であり、検証され、時に訂正される無現の繰り返し
科学の4種類:1.正しい科学、2.未科学(仮説の段階で検証を受けていない)、3.間違い科学(検証により間違いだと分かる、2005年のロシア人研究者のGM大豆によるラット高死亡率等)4.ニセ科学(科学でないものを科学に見せかける詐欺行為)
科学に対する大きな期待の中に不安が入り込む(高度成長時代の公害、BSE問題)
見えないリスクの見える化(可視化) 食品表示(遺伝子組み換え食品の表示が安全のためと誤解されている例もある)
予測に関して:1.既知の認識、2.未知の認識、3.未知の非認識、4.既知の無知
トランスサイエンス:科学だけで答えを出すことのできる問題と、科学は部分的な答えしか出せないので別の解決法が必要な問題がある=科学に問うことは出来るが、科学のみで答えることのできない問題。
科学以外の判断基準:利害と倫理
日本ではテクノロジー・アセスメントが未だ機能していない。マイナスの影響についてもあらかじめ総合的に検討して出来るだけマイナス面を小さくして、その科学技術を社会が受け入れやすくしようとする考え方。(環境影響評価なんかが日本ではいい加減な理由がこの辺でしょうね、リニア新幹線問題の)

第3章
食品安全基本法 日本と世界の基準を近づける、食料の輸出入に支障が出ないように
科学的判断ではなく政治的判断もある。
たとえ不十分であっても「その時点において到達されている水準の科学的知見に基づいて」科学的判断をおこなう。
リスク評価は客観的かつ中立公正に行われなければならない(これが守られないから、昨今の医薬品の産学での不正論文や薬事行政の問題が起こるのだろう)
リスク管理者の交代:消費者(主婦ら)自ら、から食品関連事業者へ。
リスク管理の方法:1.リスク保有(特別なリスク管理を行わない)、2.リスク転移(たとえば損害保険)、3.リスク回避(リスクをそもそも保持しない)、4.リスク最適化(費用と効果を計算して)
ALAP(As Low As Practicable)からALARA(As Low As Reasonably Achievable)  リスク回避からリスク最適化 放射線防御の考え(客観的かつ公正なのだろうか?)
絶対安全論(ゼロリスク論)は理想論
実質安全論(現実論)は評判が悪い 消費者がリスク、事業者がメリット
理想論と現実論の矛盾した例:硝酸塩、食品添加物としては規制値設定、葉物野菜には硝酸塩が含まれる。
無農薬野菜、無添加食品、果物にも多くの化学物質が含まれる。放射性カリウム等も。
ワクチン効果と副作用問題。「私はワクチンで助かった」と訴える人はいない。(個人的にはワクチン問題は薬事審議会の審査員や業界との問題だと思うけど)ワクチンの恩恵をうける不特定多数の人に感染症にリスクを与えているのも事実。
化学物質の安全性:無毒性量(実験動物で)と安全係数をかけて一日摂取許容量(ヒトがその化学物質を一生涯にわたって毎日摂取し続けても健康への悪影響がないと推定される1日あたりの接種量)を求める
安全係数:ヒトと実験動物の種差を10、ヒト間での個体差を10 これを掛けて100
一日摂取許容量を超えるような違反食品(農薬等)はこれまで無い(故意による犯罪を除く)
実験動物の親子2代観察(遺伝子、胎児毒性等)で安全性試験は行われる。
リスク管理:事前の対策を行うことで被害を防ぐことを目的。危機管理、被害を想定して損害を最小化する努力 失敗例:雪印乳業
本当のリスクとしての食中毒 日本人の28人に一人が年1回は食中毒になっている。
喫煙と飲酒のリスク:今、酒とたばこが出現したら間違いなく「毒物」として即時禁止物質。
パチンコ:依存症としての。韓国2006年に廃止。日本メディアは報道しない。

第4章(個人的には低線量被ばくや放射能研究がある意図をもって行われた歴史が存在すると考えているので、4章に関しては若干懐疑的)
放射能問題におけるリスク評価とリスク管理の違いが認識されていない。
科学が言えること、100mSv以下の影響は小さすぎて分からない程度であるということだけ。
政府に対する不信感と放射能に対する恐怖感
低線量放射線リスクが小さい事が科学的に証明されている(島薗氏のブログを批判、ただし、唐木氏は島薗進氏の「つくられた放射線「安全」論 ---科学が道を踏みはずすとき」は読まれていないと思われる)
また唐木氏と同郷?の唐木順三氏の『「科学者の社会的責任」についての覚え書』(あとがき島薗進)は読まれているだろうか。
島薗氏の父親は広島で被爆調査としての脳の標本作製に携わる(おそらく入市被ばく)。

第5章
全頭検査は世界中で日本だけが実施した国民向けの「安心対策」だったが、政府はこの事実を国民に十分に説明しなかった。安全対策ではない。
科学と政治のはざま

第6章
中国からの輸入食品違反率は米国や韓国より低い 統計学の基礎知識の欠如(あるいは嫌中?)
天然化学物質中の発がん物質
焙煎したコーヒーには826種類の揮発性化学物質(コーヒーの香りの原因物質)、その内21種類を試験、16種類に発がん性。自然の野菜は安全という信仰
サプリメント効果?

第7章
食品偽装と信頼 法律との兼ね合い 有名店の表示

第8章
いかに誤解を解消して科学的に正しい情報を伝えるか。
テレビ等メディアとインチキ(ニセ科学) 
ホメオパシー
美味しんぼと遺伝子組み換え作物

第9章
危険情報と安全情報のアンバランス 量と作用の関係を無視した主張が多い
情報公開、対話、議論、消費者がリスクを受け入れる環境
リスクコミュニケーションの重要性
科学教育の不足
世論調査の問題(どのような根拠に基づいて答えるか) メディアに誘導される危険
科学の議論と価値観の議論の混同
安心=安全+信頼

目次
第1章 不安の構造
第2章 科学技術の影
第3章 リスク管理
第4章 放射能と健康
第5章 BSE
第6章 誤解の損害
第7章 商売と偽装
第8章 誤解との戦い
第9章 リスクコミュニケーション