道路隆起、地下水噴出、水枯れ…うまくいかないリニア工事 なぜトラブルが続発? 周辺住民の不安は深く:東京新聞デジタル





JR東海は10月末にリニア中央新幹線の新型試験車の内部を報道公開した。「こちら特報部」も体験乗車会に参加し、最新のリニア技術を目の当たりにした。だが、その数日前には東京都品川区のトンネル工事現場上の道路の隆起が発生。工事に反対する市民団体は岐阜県瑞浪市の水枯れなど度重なるトラブルに不信感を募らせている。事業の進め方に改善の余地はないか。 (中川紘希、加藤文)
◆あっという間に500キロ 乗り心地は悪くない
 天井に映し出された時速表示は、あっという間に時速500キロに達した。

リニアの新型中間車両「M10」の車内。薄茶色の座席には、折り返し時に自動で転回する機能がついた
 記者は10月31日、リニアが開業する際の車両のベースとなる試験車両のうち、新型中間車両「M10」に乗車。車内で目を引いたのは白い膜が張られた天井部分だ。防音目的で張った膜だが、プロジェクターで映像を投影できる仕組みになっている。
 山梨リニア実験線(山梨県笛吹市—上野原市、総延長42.8キロ)を走行するリニアの速度表示を始め、先頭車両のカメラ映像、出口の案内、青空の映像などが次々に映し出された。
 JR東海によると、新型車両のコンセプトは環境負荷の低減だ。薄茶色の座席にサトウキビの搾りかすを原料の一部とするバイオポリエステル糸を使用。床材の一部にはリニア車両の使用済みタイヤを再利用したゴムマットを使う。

リニアの新型中間車両「M10」の車内。天井には速度表示や先頭車両のカメラ映像が映し出された=山梨県の山梨リニア実験線で
 時速が150キロを超えたころ、車両が浮上。ゴーッという音とともに小刻みな振動を感じるが、乗り心地は決して悪くなかった。
◆工事費の見通しは11兆円と天文学的 開業時期は未定
 一方、リニアを巡っては体験乗車会直前の10月29日に、JR東海が東京・品川−名古屋間のリニアの工事費についてこれまでの計画より約4兆円増え、11兆円になるとの見通しを公表したばかり。物価高騰の影響や、もろい地盤の対策が必要なトンネルなど難工事への対応が増額の要因という。2035年開業を前提に算定したが、静岡県内の南アルプストンネルの着工見通しが立っておらず、実際の開業時期は未定だ。
 旧国鉄時代の1962年に研究開発が始まったリニア。JR東海は1997年以来、山梨実験線での走行試験を重ねてきた。今年9月末時点での累積走行距離は534万キロに及ぶ。
 工事自体に巨額の費用を見込む中、車両の改良を続ける理由を、JR東海の担当者は「11兆円は健全経営と安定配当を堅持できることを確認した上での試算。車両の改良は、開業後を想定し、乗り心地の向上のほか、将来に向けて運営・保守コストを下げることにもつながる」と話した。
◆工事費は「さらに大きくなるのでは」
 リニアの現状を経済の専門家はどう見ているのか。

7月に報道公開されたリニア中央新幹線の新型中間車両「M10」。金色の帯で車体が飾られている=山梨県都留市で(山本拓海撮影)
 事業を分析する三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)の宮下光宏上席主任研究員は「建設業界は労働力不足だ。社会ではインフラ老朽化対策や激甚化する災害対策も必要とされ工事ニーズが高まりコストは上がるだろう。リニアの工事費もさらに大きくなるのでは」と見通す。青函トンネルなど過去のトンネル工事でも大幅に工期が延びたとして、リニアの工期もさらに延長する可能性を指摘した。
 MURCは2013年、東京−名古屋でリニアが開業する経済効果は50年間で約10.7兆円と試算した。宮下氏は「開業が遅れても基本的に効果の大きさは変わらないが、経済活動をする人口が減るほど効果も小さくなる。特に中間駅が置かれる地方は既に人口減が深刻。想定する効果が見込めない恐れがある」と分析した。
◆「工事の環境対策はいまだに不十分だと裏付けられた」

リニア新幹線のトンネル工事現場付近の隆起した道路=東京都品川区で
 10月28日に発覚した東京都品川区の道路隆起。工事との因果関係は調査中だが、各地の市民団体が動きを活発化させている。
 昨年10月に民家の庭に地下水と気泡が噴出しトンネル工事が一時中断した町田市の「リニア中央新幹線を考える町田の会」は10日、JR東海に品川の隆起の調査徹底や具体的な数値を用いた丁寧な説明を申し入れた。事務局の亀山俊平さんは「地上への影響が町田よりさらに深刻な形で出た」とみる。
 JR東海は、町田での地下水などの噴出の原因を「地質などに関して複数の条件が重なる通常と異なる現場環境だった」と説明。大型掘削機(シールドマシン)の圧力を変えるなどの対策を示し、今年1月に調査掘進を再開した。
 だが、今回は品川で、工事の影響が疑われる地表面のトラブルが再び起きた。亀山さんは「JR東海は町田の件について『地質などが特殊だった』というような原因分析をしていたが、地質は場所によって異なりどこも特殊。他の地点でも問題が起きるのでは」と懸念した。
 川崎市を中心とした「リニア新幹線を考える東京・神奈川連絡会」もJR東海に、町田や品川と同じく地下40メートル超の大深度を通る工事全てを原因究明まで中止することを申し入れた。

リニア中央新幹線「小野路工区」の小野路非常口=2024年12月19日、東京都町田市で、本社ヘリ「あさづる」から(平野皓士朗撮影)
 天野捷一(しょういち)・共同代表(80)は「工事の環境対策はいまだに不十分であることが道路隆起で裏付けられた。地表への被害はいつどこでも起きうる」と不安視する。同会は川崎市に対して、JR東海に工事中止を指示することも要請。「行政はいつも傍観するだけだ。住民の安全な生活を保護するという役割を果たしてほしい」と願った。
◆トラブル把握は遅い、地質構造の事前予測が不十分…
 リニア工事が道路の隆起を起こした可能性はどれほどあるのか。JR東海はどう対応すべきか。
 都環境影響評価審議会委員で東京大学大学院の愛知正温(まさあつ)講師(応用地質学)は「自然の地質現象とは考えにくい。人間の活動が関与した可能性が極めて高い」とみる。JR東海が「周辺で他の工事は行われていない」としていることから、「消去法では原因の第一候補と言わざるを得ない」と指摘、「現場は圧力が伝わりにくい地層だと考えられているが、局所的に異なる地質構造が存在し、地上に影響が出た可能性はある」と推測した。

報道陣らに公開されたリニア中央新幹線品川駅の工事現場=2024年11月4日(中村千春撮影)
 JR東海に対して「できるだけ早く原因究明を行い、周辺住民や品川区と、調査計画や状況に関する情報共有を密にし、疑問や不安の声には丁寧に対応していくべきだ」と促す。また道路隆起は区がJR東海より先に発見したことから、「把握が遅れており、モニタリング体制の拡充も検討する必要がある」と説いた。
 工事着工を認めていない静岡県の専門部会委員で一般社団法人「地下水技術協会」会長の丸井敦尚氏は「地質構造の事前予測が不十分で、うまく掘削できず地表への影響につながっている可能性がある」との見方を示す。JR東海がリニアが通る本坑の掘進前にボーリング調査をして地質を予測していることに触れ、「ボーリング調査だけでなく電気探査などで地質を調べ直し、予測がどれだけ信頼できるかを確認すべきだ。予測精度を把握しておかないと、今後も各地で問題が起きかねない」と話した。
 工事では常に環境影響が起きうる「不確実性」が伴うが、丸井氏はJR東海のリスクの検証や説明は不十分とみる。「地震発生や天然ガス噴出など可能性が低い現象も含めてあらゆるリスクを洗い出し対処法を決めておくべきだ。住民にも情報提供し理解を得て進めなければ、トラブルが起きるたびに動揺が広がり、工事は長く立ち止まることになる」と警鐘を鳴らした。
◆デスクメモ
 次々と問題が湧き出てくるリニア中央新幹線。JR東海は「明るい未来」の宣伝に余念がないが、総工費は膨れ上がるばかりだ。かつてない難工事とされるのに、各工区での地層や水資源への影響予測など監視体制は不十分だと言わざるを得ない。リニア事業への不信感も膨らんでいく。(義)