「残された住民は、本当に安全なのか…」 調布陥没事故から5年、今も事業者側から納得のいく説明はなくて:東京新聞デジタル
「残された住民は、本当に安全なのか…」 調布陥没事故から5年、今も事業者側から納得のいく説明はなくて
東京外郭環状道路(外環道)の地下トンネル工事の影響で、東京都調布市の住宅街の市道が陥没した事故から18日で5年となった。現場では今も地盤補修工事が続き、生活を続ける住民がいる一方、悩みながらも移り住んだ人もいる。身を置く場所が変わって関わり方に違いが生まれても、慣れ親しんだ土地への思いや不安は重なる。「この街はどうなるんでしょうか」(鈴鹿雄大)
◆「こんな形で人がいなくなった街はどうしたらいいのか」
京王線つつじケ丘駅から約400メートルの閑静な住宅街。2020年10月18日、長さ5メートル、幅3メートル、深さ5メートルにわたる陥没が起きた。今も現場周辺では工事再開に向けた地盤補修が続く。白いフェンスに囲まれ、重機の音が響く。事業者によると、補修に伴う移転や仮移転の対象は約30世帯で、約9割が移転などの契約をしているという。
「生涯住むつもりで買った家。引っ越すつもりはない」。そう語るのは補修現場近くに住む80代女性。事業者側の東日本高速道路から、移転は求められていないという。「年齢を重ねたからか、簡単には動じない」と笑うが、ご近所は1軒、また1軒と転居していった。
女性の娘は、女性宅から足が遠のいている。「子どもと一緒に行って何かあったらこわい」というのが、その理由だ。女性は「若い人には住みづらい場所になったのかもしれない。こんな形で人がいなくなった街はどうしたらいいのか」と顔を曇らせる。
◆「静かな住宅地はどこにいったのか」
移転が増えるにつれ陥没後に結成した住民団体の集まりに参加する人は減っており、メールでの情報共有にとどまる人もいる。
住み続けているある住民は偶然、転居した人と久しぶりに顔を合わせたという。現状を説明すると「状況はちゃんと知っています。メール見てますから」と返ってきた。顔を合わせなくても、気にかけてくれてることにうれしくなった。
悩み抜いた末、移転した丸山重威(しげたけ)さん(84)は住民団体の中心の1人として活動する。自宅は移転対象からわずかに外れていたが、事業者から「工事の作業場に使いたい」との申し出を受けた。家族と話し合い、44年間の思い出が詰まった家から離れた。
今月上旬、市内であった住民団体の集会で、丸山さんはこう話した。「静かな住宅地はどこにいったのか。この街はどうなっていくのか。残された住民はこの先、本当に安全なのか」。発生から5年たった今も、事業者側から納得のいく説明はない。
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◆2020年10月18日、住宅街で深さ5メートルの陥没が発生
東京都調布市の道路陥没は、東日本高速道路などが地下に建設していたトンネル工事が原因で起きた。
補修材や泥を通すため入間川の上に設置されたパイプライン=東京都調布市で(池田まみ撮影)
東名高速道路と関越自動車道大泉ジャンクション(練馬区)を結ぶため、2017年に世田谷区からシールドマシン(掘削機)が発進。2019年には大泉側からも掘り始めた。東京外郭環状道路(外環道)の一部として長さ16.2キロのトンネルを造る計画だ。
うち14.2キロは、地権者に事前補償が不要な地下40メートル以深を掘る。政府は地上への影響はないとしていたが、2020年10月18日、調布市の住宅街で深さ5メートルの陥没が発生して掘削を中断。その後も長さ30メートルなどの地下空洞が3つ見つかった。
◆地盤補修に伴い約30世帯が移転・仮移転の対象に
調査の結果、シールドマシンが土砂を取り込みすぎて地盤が緩んだと判明。2023年8月にトンネル直上の長さ220メートル、幅16メートルを対象に地盤補修が始まった。セメントなどを圧縮空気とともに地中に注入し、周りの土と混ぜて直径4メートル、高さ40メートルの柱220本を造る。
当初は2024年末までの予定だったが、近くを流れる入間(いりま)川で、圧縮空気漏れによる気泡が発生して工事を約3カ月中断するなど、順調に進んでいない。地盤補修に伴い約30世帯が移転・仮移転の対象となっており、このうち「約9割が移転などの契約を締結済み」(東日本高速道路の担当者)という。
なお、陥没や空洞の発生を受けて住民らが工事の全面差し止めを国や事業者に求めた仮処分申し立てでは、2023年7月に陥没発生区間に限り工事中止を命じた決定が確定している。(佐藤裕介)