<本音のコラム>明日のディストピア 斎藤美奈子さん(文芸評論家):東京新聞デジタル
<本音のコラム>明日のディストピア 斎藤美奈子さん(文芸評論家)
〈排外主義者たちの夢は叶(かな)った〉という一文でその本は始まる。
〈特別永住者の制度は廃止された。外国人への生活保護給付が明確に違法となった。公的文書での通名使用は禁止となった。ヘイトスピーチ解消法もまた廃され〉た。
パチンコ店は風営法改正で、韓国料理屋や韓国食品店は連日の嫌がらせで廃業に追い込まれた。父が在日韓国人、母が日本人の主人公はふとつぶやく。〈日本初の女性総理大臣が、あれほどまでの極右だったとは僕もすっかり騙(だま)された〉
李龍徳(イヨンドク)の小説『あなたが私を竹槍(やり)で突き殺す前に』(河出文庫)の冒頭部分である。まるで参院選後の日本を予言するような戦慄(せんりつ)の近未来!
現実との類似はそれだけではない。排外主義的な法改正は、中道左派の政党がほぼ絶滅し、神島眞平(かみじましんぺい)なる人物率いる極右政党「新党日本愛」が野党第1党に躍り出て、政権与党と政策取引をした結果だった。
作者は在日3世の作家で、初版は参政党の結党(2020年4月)に先立つ同年3月。「日本人ファースト」がどんな結果を招くかを、この小説は余すところなく描く。待っているのはヘイトクライムが横行する絶望的なディストピアだ。
放置すれば事態はすぐここまで行く。極右の主張は感染力が高い。だからこそ対抗しうる言葉を発し続けることが必要なのだ。