リニア工事”水位低下1年”湧水対策今も決まらず 岐阜 瑞浪|NHK 岐阜県のニュース





リニア工事”水位低下1年”湧水対策今も決まらず 岐阜 瑞浪

05月14日 19時32分

岐阜県瑞浪市にあるリニア中央新幹線のトンネル工事現場で水が湧き出し、周辺の井戸の水位などが低下している問題が明らかになってから1年です。
いまも地下水の流出が続き、掘削工事も中断したままですが、水を止めるための方法は決まっておらず、今後の対策の内容や時期が焦点となっています。

瑞浪市にあるリニア中央新幹線の日吉トンネルの工事現場では、おととし12月と去年2月に地下水が湧き出し、周辺にある大湫町で、個人の井戸や共同水源の水位が下がっていることが去年5月に明らかになりました。

ことし1月の時点では、町内にある32か所の個人の井戸や共同水源のうち、14か所で水が枯渇し、4か所で水が減っているということです。

また、JR東海によりますと、一部の観測用の井戸では地下水の水位が下がり続けていて、最も下がっている井戸では先月23日の時点で60メートル以上下がっています。

さらに町内では地盤沈下も起きていて、場所によっては同じ時点で10センチ余り下がっています。

JR東海は、水位の低下や地盤沈下は「トンネル工事による地下水の流出が原因の可能性が高い」としていて、影響が出ている住宅に水道を引いたり、新たに水源を確保するための井戸を掘ったりしているほか、住宅の修理を行うなどしています。

また、トンネル工事現場で湧き出ている水を止めるため、周囲の地盤に薬液を注入するなどの対策を進めました。

ところが、地盤のさらに奥までセメントを注入した場合、水圧でトンネルが損傷するリスクがあるとして、作業は行われておらず、ほかに有効な対策案も見いだせていないということです。

トンネルで湧き出る水の量は徐々に減っているものの、現在も毎秒およそ8リットルが流出していて、今後の対策の内容や時期が焦点になっています。

【”水位低下”これまでの経緯】
今回の問題についての経緯をまとめました。

瑞浪市の大湫町で井戸などの水位が低下しているとJR東海が公表したのは、去年5月でした。

おととし12月中旬と去年2月中旬に、近くにある日吉トンネルの掘削工事現場の2つの区間で地下水が湧き出て、JRが設置した観測用の井戸のほか、個人の井戸や共同水源、ため池などで水位が低下しました。

JR東海は、水が減った家庭に上水道の水を引き込むなどしましたが、トンネルについてはさらに200メートルほど掘り進めてから工事を中断する方針を示しました。

これに対して、岐阜県や瑞浪市は即時の中断を申し入れ、JR東海は工事を止めるとともに、去年5月20日から湧き水を止めるため、岩盤にウレタン系の薬液を注入する対策を始めました。

水位の低下が確認された去年2月の時点で工事を中断しなかった理由について、JR東海は、軟弱な地盤を掘削していたため、安定した場所まで掘り進めることにしたなどと説明しています。

また、当時の古田知事は、水位の低下についての連絡がJR東海から去年5月までなかったとして、「すみやかな情報共有が不可欠で遺憾に思う」と述べました。

去年5月下旬には、原因の究明や対策について話し合うため、JR東海も出席して、県の環境影響評価審査会が始まりました。

去年8月には、大湫町で地盤沈下が起きていることも明らかになり、翌月には地盤沈下により住宅に被害が出ていないか、JR東海がおよそ60軒を対象に調査を始めました。

今月までに調査はおおむね終了し、生活に影響が出ている住宅については修理を行っています。

一方、トンネルで湧き出す水を止めるため、JRが進めてきた対策は課題に直面しています。

周囲の地盤に薬液などを注入したあと、さらに粒子の細かいセメントを注入して亀裂を埋める「本注入」と呼ばれる対策を行う予定でした。

ところが、去年7月、この方法の参考にしていた鹿児島県のトンネルで壁面の一部が崩れる被害が発生しました。

このため、「本注入」を行えば、水圧によりトンネルが損傷するリスクがあるなどとして現在も行われていません。

ことし1月の審査会では、専門家から本注入を行うのか、行わない場合はどのような代替案があるのかを示すように求める意見が出ていました。

【住民は】
大湫町の住民は、上水道の水を供給するなどJRの対応を一定程度、評価する一方、水位の低下や地盤沈下を食い止めるためにも早期の対策を求める声が上がっています。

長年、大湫町に住む大竹悦子さん(76)は、去年2月ごろから自宅で使っていた共同水源の水位が低下し始め、その後、水がほぼなくなったということです。

水源は地域の人がてんびんを使い何回も水をくんでいる様子をみて、大竹さんの父親などが作ったものだということです。

現在はJR東海が代わりの水を自宅に供給し、生活に支障はないということですが、「水のおいしさが大湫の自慢のひとつだったので味わえなくなり残念です。JR東海が生活できる状態にしてくれたことはありがたいですが、水源に水が湧くことを切に願っています」と話しています。

また、周辺で地盤沈下が起きている大湫町にある施設では、去年の秋ごろから引き戸やトイレのドアの開け閉めが出来なくなりました。

大湫町の区長会長の纐纈富久さん(68)は、「致し方ないと思いますが、非常に不便です。地域の皆さんの意見を聞いて改修なり補強なりをしていただきたい」と話しています。

問題が明らかになってから1年がたったいまも、トンネルで湧き出している水の対策が示されていないことについては、「真摯に対応してもらっているが、日本中の技術を結集し、なるべく早く湧き水を止め、地盤沈下も少なくなるようにしてもらいたい。井戸の水も工事前の状況に戻してもらいたい」と話していました。

【JR東海は】
JR東海は、地下水位の低下や地盤沈下が続いていることについて、「地域にお住まいの皆様には大変ご心配とご迷惑をおかけしています。今後とも専門家の意見を踏まえながら、対応や検討状況などについて随時、地域の皆様や関係自治体の方に報告し、きめ細かくコミュニケーションを取りながら真摯(しんし)に対応していきます」としています。

また、トンネルの地盤の奥までセメントを注入する本注入が行われず、代替案も示されていないことについては「本注入についてはトンネルの安全性を担保するには課題が多いと考えており、可否について慎重に検討しているところです」としていて、掘削工事の再開については「現時点で答えられる状況ではない」としています。








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越智 秀二
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2023-07-05