ジャーナリストの樫田さんより



4月20日。長野県松本市で「登山者の視点」を軸にリニア問題を考えようとの集会「南アルプスからのSOS」が開催された。
主催は「大鹿の十年先を考える会」。
 「登山を愛する」が「山を愛さない」人が多い日本では、アルピニストも、一般登山者も、山岳雑誌も、山小屋経営者も、山岳用品店も「南アルプスを守れ」との声をほとんどあげない。 
 第1部では、長野県大鹿村在住の登山家である宗像充さんが司会を努め、山岳ガイドの馬目弘仁さんと山岳気象予報士の猪熊隆之さんのパネルディスカッション。
 猪熊さんは「小学生の頃は、リニアは『夢の超特急』だった。でも10年ほど前に宗像さんに誘われ大鹿村に滞在してから、リニアを勉強して色々な問題点があると知った。南アルプスは北アルプスと違って情報が少なく、まだ人が入りにくい場所があるのが魅力的。実在する極楽です。リニアのメリットは、都市間の時間短縮はあるが、デメリットは、南アルプスの自然に大きなダメージを残すこと」ととらえ、馬目さんは「リニアで南アルプスにそんなトンネル掘って大丈夫なのと思う。私も登山者だから、黒4(黒部ダムから欅平までのルート)を利用するが、黒部ダム建設は(あれだけの出水を起こし制御したことで)プロジェクトXでは美談になっている。あれをもう一度、南アルプスでやるのか?」と南アルプスでの工事に疑問を呈した。
 南アルプスが有する秘境性。それがゆえに、猪熊さんは「たとえば北アルプスが壊されるなら皆が騒ぐが、南アルプスでのリニア計画では、そこまでには至っていない」と、宗像さんも{黒部ダムの時代は、まだ開発への疑問がない時代だったが、今は違う。でも、登山者のフィールドが変貌することは大問題なのに、(リニア問題には)なかなか登山者の意識がついてこない}と登山界での問題意識を指摘した。
 第2部では「山を愛する」熱き登山家の服部隆さんが講演。
 服部さんは、JR東海が「源流部の沢の調査は地理的に無理」と調査を拒んでいることに「じゃ、僕らがやってやろうじゃないか」と昨年7月にリニア工事で沢枯れが予想されている蛇抜沢を宗像さんも含め5人で踏査した。そしてこの事実は大きく、JR東海は沢の調査をすると表明したのだ。このことは何度もこのSNSで書いたので詳細は割愛するが、やはり南アルプスにおけるリニア問題を訴える時の服部さんの熱量は他の誰も及ばない。
 で、ここで書き留めたいのは、登山者に何ができるのか、だ。
 ミニ報告を行った竹本幸三さん(勤労者山岳連盟/静岡県)は、県と静岡市に対して「大井川にリニア残土を捨てるな」「南アルプスの環境を守れ」との二つの要望書を提出し、一般市民への周知としては「南アルプスを知ろう写真展」を2016年から毎年開催している。11月初旬の1週間で700〜800人が訪れると報告した。
 宗像さんは以下の行動提起をした。
 南アルプス現地の問題が外に伝わらないのは、中に入れないから。入れるのは登山者だけ。そういう僕らが、南アルプスの山奥で排出される残土やダンプ、自然改変などの写真を撮影したら、SNSに投稿してほしいと。
 さらに宗像さんによると、リニア開業が昨年突如として、それまでの「2027年以降」から「2034年以降」へと伸びたことで、これまでリニア問題にほとんど目を向けなかった山岳雑誌も変わり始めているという。というのは、宗像さんの企画に某山岳雑誌が乗り、宗像さんのリニア単行本が出版されそうなのだ。
 最初は40人規模の集会を予想していたが、集会前の問い合わせが多く、急きょ、大きな会場を借りたのだが、約70人が来訪した。リニアルートとは関係のない松本市においてこの数字はなかなかのものだと思う。
 宗像さんは「こういう集会を誰が東京でも開催してくれないか」と言ったが、その通りだと思う。「山を愛する」熱き登山者は東京周辺にいないか?
★写真は、★黄色いTシャツが服部さん、★ピンクが猪熊さん(ちなみに、「世界の果てまでいってQ」での登山チームへの天気情報の提供をしている)、★青シャツが馬目さん、★4人が写っている右から2人目が司会の宗像さん



リニアはなぜ失敗したか
越智 秀二
緑風出版
2023-07-05