「謝罪のひと言が、そんなに難しい?」 韓国・元徴用工遺族らは問いかける 日本の「植民地主義」を克服を:東京新聞デジタル




国会で石破さんが少し前向きな言及をしていた。
現場を訪問することは選択肢から排除しないという様な事を。長生炭鉱での遺骨収集に関して。

植民地主義、帝国主義で傷つけられた人々が「もう謝らなくても良いですよ」と言うまで
謝り続けるのが人間の出来る最大の知性であり品格だと信じている。

傷ついた人々の痛みは、加害者は分からないし、被害者やその子孫も謝罪無くして癒される事はないだろう。それは当事者意識を持ち続ける事で、孫やその子孫らに歴史の反省として、友好を築いていけるのだから。

以下記事
戦時中に朝鮮半島から動員された元徴用工訴訟の原告遺族が来日し、日本政府や企業に謝罪と賠償を求めた。戦後80年が迫り当事者が少なくなる中、韓国では大統領が罷免され、賠償支払いを政府傘下の財団が肩代わりするとした解決策にも、今後影響する可能性がある。日韓国交正常化からも6月で60年。日本の植民地支配を背景とした「強制動員」問題が今に問うものとは。(福岡範行、中根政人、安藤恭子)
◆「はるばる来たのに対話できない…残念」
 眉間にしわを寄せながらも、声は荒らげなかった。韓国から来日した元徴用工の遺族、李昌煥(イチャンファン)さん(68)は11日昼、東京・丸の内の日本製鉄前に立ち、こう問いかけた。「真摯(しんし)な謝罪のひと言が、そんなに難しいのでしょうか」

長生炭鉱の坑口から遺骨収容のための潜水調査に向かうダイバー=2月、山口県宇部市で
 日韓の支援者ら約30人が「被害者に謝罪を」などと訴えた街頭活動だ。
 李さんは支援者たちと計4人で日鉄の受付を訪ね、担当者との面会を求めた。面会の希望は事前に伝えていたというが、結局、会えずじまい。山なりになるほど唇を強く結び、日鉄の入る34階建てのビルを見上げた後に短く語った。「はるばる来たのに対話できない。残念極まりない」
 李さんの父親、李春植(チュンシク)さんは1月に亡くなった。104歳だったという。日鉄を相手にした韓国の元徴用工訴訟で2018年に勝訴した原告の一人だ。戦時中の1943〜1945年、当時の日鉄釜石製鉄所で働いた。「技術を学べる」と言われたが、1日12時間石炭を運ぶ単純労働をさせられ、賃金ももらえなかった。
◆日本政府は「完全かつ最終的に解決済み」の立場
 こうした朝鮮半島からの労働者は、日本政府の労務動員計画により日本などに送られ、1939〜1945年の間に約80万人に上ったともされる。

日本製鉄に要請への対応を拒まれ、無念の表情を見せる李昌煥さん(中)。右の写真は元徴用工訴訟の原告だった父の李春植さん(故人)=11日、東京都千代田区の同社前で
 戦時賠償を巡っては、今から60年前の1965年に日韓請求権協定が結ばれ、日本政府は「完全かつ最終的に解決済み」としてきた。1990年代には元徴用工らが日本政府や企業に賠償を求め、日本の裁判所に相次いで提訴したが、敗訴を重ねた。
 一方、韓国では2012年に最高裁が個人請求権は消滅していないと判断。李さんの父が勝訴した2018年の確定判決など日本企業に賠償を命じる判決が続く。
 しかし、日本企業からの賠償は進まず、韓国政府は2023年、韓国の財団が肩代わりする「第三者弁済」を提示した。この弁済を受け取るかどうかで、元徴用工の家族間でも意見が割れた。李さんは「残念ながら私たちの家族に問題が生じてしまった」と同日午後、国会内であった集会で嘆いた。
◆「過去を反省しなければ、歴史は繰り返される」
 集会では、三菱重工業の広島造船所で働き被爆した元徴用工、鄭昌喜(チョンチャンヒ)さんの遺族2人のメッセージも紹介された。日本が植民地支配や強制動員の違法行為を認めていないとし、「日本が過去を反省しなければ、再び歴史は繰り返されるでしょう」と指摘した。

元徴用工訴訟の原告への謝罪と協議を日本企業に求める遺族の李昌煥さん(左)や支援者
 日本の支援団体事務局の矢野秀喜さん(74)は「戦後補償を求めていくことは、戦争を止める道だ。遺族のためでも、私たちのためでもある」と語った。
 この日、支援者らは日鉄近くの三菱重工も訪ね、担当者との面会を求めたが、会えなかった。
 「こちら特報部」の取材に、両社の広報担当者は「解決済み」という政府見解と同様の立場だとし、「新たにお伝えすることがない」(日鉄)、「面会はしないという会社の方針」(三菱重工)などと説明した。
◆尹錫悦氏の罷免で日韓関係の行方は
 戦後80年や日韓基本条約締結による両国の国交正常化から60年の節目を踏まえ、弁護士や研究者、小説家などは、3月中旬に連名で声明文を発表。韓国で賠償命令を受けた日本企業が賠償金の支払いを拒否していることについて、「法の支配」の理念などに反すると指摘した。声明文の呼びかけ人の一人、川上詩朗弁護士は、集会で「人権が侵害された時に、速やかに回復するのは当たり前の話だ。回復するために必要なのは賠償と謝罪だ」と訴えた。

院内集会で発言する元徴用工訴訟原告の李春植さんの長男、李昌煥さん(左から3人目)。同2人目は川上詩朗弁護士
 一方、韓国では、政権が交代するたびに、歴史認識に関する対応が「振り子」のように揺れ動いてきた。
 元慰安婦問題を巡る2015年の日韓合意では、日本の拠出金で韓国側が「和解・癒やし財団」をつくり、被害者支援を実施することなどで「最終的かつ不可逆的な解決」とした。だが、その後の文在寅(ムンジェイン)政権は、世論の動向を意識して財団の解散に踏み切り、合意が事実上「無効化」する形となった。
 一方、元徴用工の問題については、韓国政府傘下の財団で日本企業の賠償金を肩代わりすることを決めた尹錫悦(ユンソンニョル)大統領が罷免され、財団の資金枯渇も懸念される事態となっている。
◆「長生炭鉱」でも隔たりが
 木村幹・神戸大大学院教授(朝鮮半島地域研究)は「新政権になれば、財団の枠組みは維持されないだろう」と指摘。「(賠償金の肩代わりについて)韓国政府が何とかしてくれるとの期待があったから、あたかも解決するような雰囲気になっていたが、基本はそうではない」と述べ、日本政府や日本企業の向き合い方が改めて問われるとする。

元徴用工訴訟の原告遺族らが来日し、現状報告などが行われた集会=11日、衆院第1議員会館で
 朝鮮人労働者の問題を巡っては、戦時中の1942年に起きた水没事故で、朝鮮半島出身の作業員ら183人が犠牲となった海底炭鉱「長生炭鉱」(山口県宇部市)に関して、地元の市民団体「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」が、遺骨の収容に向けて調査活動を続けてきた。
 7日に開かれた参院決算委員会では、石破茂首相が刻む会の取り組みについて「尊いことだと思っている。危険があることを政府が承知していながら、作業をしておられる。『自己責任だから』みたいなことを言うわけにもならない」と敬意を示した上で「必要があれば現場に赴くことも、選択肢としてあると思っている。どういうことが必要か、政府が責任を持って判断したい」と今後に含みを持たせるような答弁をした。
 一方、福岡資麿厚生労働相は「坑道に潜水して調査することについて、安全性に懸念がある。対応可能な範囲を超えている」と、政府が関与する可能性を否定。現地訪問も考えていないと言い切った。
◆「被害者の尊厳回復が、戦争遂行を止める力に」
 日韓間の隔たりは大きい。歴史研究者の竹内康人さんは「元徴用工やその遺族は、戦後も強制労働の被害を背負ってきた。だが、日本政府は、韓国の外交権を奪った2005年の第2次日韓協約から120年、日韓基本条約からも60年、植民地支配とその下での動員は合法という認識を変えなかった」と指摘する。

院内集会で発言する元徴用工訴訟原告の李春植さんの長男、李昌煥さん
 現状の世界情勢を踏まえて「パレスチナ自治区ガザやウクライナでは侵攻が止まらず、台湾有事も懸念される中、日本に今もある植民地主義を克服しなければ、これからの戦争は防げない」と竹内さんは説く。
 今後、日本政府や日本企業がとるべき対応は何か。「植民地支配の不法と、戦時中の強制労働や強制動員の事実を認めることが第一だ。教科書に動員の強制性をきちんと記載し、日本に残る遺骨は収集して遺族の元に戻す。被害者の尊厳回復の仕組みが、政府による戦争遂行を止める力となる」と見据えた。
◆デスクメモ
 2月に友人たちと訪れた長生炭鉱。海底に続く坑口の闇に吸い込まれそうな感覚に陥った。戦時中の事故で朝鮮人犠牲者の多さが注目されるが、日本人の遺骨も眠ったまま。元徴用工の尊厳回復の願いはいま日本に生きる私たちにもつながる。問題を放置すればまた命は軽んじられる。(恭)