リニア開業見通しが甘すぎ…計18工区で「2027年」に間に合わないと判明 「山梨県駅」完成は2031年:東京新聞デジタル




リニア中央新幹線品川−名古屋間の建設で、完成時期が着工時に目標とした2027年を超える工区が計18工区に上ることが、JR東海への取材で分かった。静岡県の理解を得られず着工が遅れている南アルプストンネル静岡工区のほか、他県でもトンネル掘削の長期化や用地取得の遅延、作業員確保の難航など複数の要因で工期延長が相次いでいる。2027年開業をうたった見通しの甘さを指摘する声も出ている。(梅野光春)

リニア中央新幹線の試験車=山梨県都留市の実験センターで(資料写真)
◆完成時期が示せない場所も
 JR東海によると、品川−名古屋間286キロの9割超を83工区に分割済みで、うち18工区で完成が2027年を超える。工期精査中や工区分割未定の区間もあり、2027年までに完成しない工区は増える可能性がある。
 18工区のうち、風越山トンネル(長野県飯田市)はシールドマシン(掘削機)による掘削開始を2028年度の冬ごろとし、完成時期を示せていない。掘削に先立つ資機材置き場の整備が、埋蔵文化財調査などで遅れているためという。
 完成時期が示された中では山梨県駅(甲府市)と長野県駅(飯田市)、岐阜県駅(中津川市、駅名はいずれも仮称)の2031年12月が最も遅い。用地取得の遅れや高架橋の設計変更、埋蔵文化財調査などが理由だ。
 このほか、伊那山地トンネル青木川工区(長野県大鹿村)や中央アルプストンネル松川工区(飯田市)など、地盤が想定より崩れやすく掘削に時間がかかる工区も複数ある。作業員や資材の確保の難しさも理由となるケースもあった。
◆JR東海は「開業時期に影響を与えるものではない」
 着工時の目標の2027年に完成が間に合わない工区が静岡の他にも相次ぐ現状について、JR東海は「着工できないまま7年が経過した静岡工区が開業遅れに直結している。他の工区の遅れは静岡工区の遅れの範囲内で、開業時期に影響を与えるものではない」と釈明している。
 JR東海は2010年4月、それまでの目標より2年遅い2027年開業の方針を固め、2014年12月に品川、名古屋両駅で着工。しかし工期を10年程度と見込む静岡工区で現在も着工できていない。2023年12月に開業を「2027年以降」に修正したものの、具体的な開業時期は未定になっている。
  ◇ 
◆関係自治体「間に合わないとみていた」
 2027年までに完成しないリニア中央新幹線の工区については2024年4月以降、施工業者に示す発注条件や沿線住民への地元説明会などで、JR東海がさみだれ式に公表している。
 JRは2023年12月に品川−名古屋間の開業時期を「2027年」から「2027年以降」に変更。担当者は「その後に各工区の状況を精査し、工期の延長が必要と分かった場合にお知らせしてきた」と説明する。

2025年3月の完成予定が6年9カ月延期された岐阜県駅の予定地=昨年12月、岐阜県中津川市で
 直近では2024年12月に「岐阜県駅(仮称)」(中津川市)と「第1中京圏トンネル(坂下西工区)」(愛知県春日井市)の2工区について工期延長を公表。このうち岐阜県駅は2025年3月とされていた完成予定が、6年9カ月遅れの2031年12月まで延期となった。
 中津川市リニア対策課は取材に「駅の予定地周辺の状況から、2025年3月には間に合わないとみていたが、延期について市に説明があったのは2024年12月上旬。説明も完成も、もう少し早ければいいと思った」と話す。工事車両の通行が長期化するなど住民の負担が重くなるとみて「リニア開業がいつになるかは別として、駅の工事が少しでも早く終わるようにしてほしい」と願った。
◆事業者の都合だけで計画を立てたのでは
 谷本親伯(ちかおさ)・大阪大名誉教授(トンネル工学)の話 相次ぐ工期延長や完工時期を示せない現状から、工法や工費見積もり、環境負荷など重要条件の考察不足がうかがわれる。JR東海は事業者の都合だけで身勝手な計画を立てたのではないか。今後は当初示した工期と見直し後の工期の算出方法を明確に示し、外部の検証にたえられるようにすべきだ。住民説明会でも工期算出について詳しい説明はない。事業者として「説明した」という行為を最重要視しており、広く社会に理解してもらおうという姿勢が欠けている。
20250105