リニア工事・水位低下、岐阜県と瑞浪市が文書開示 トンネル完成が「最善」と断言、JR東海の姿勢浮き彫り /岐阜 | 毎日新聞
こちらは町田の地下
リニア工事・水位低下、岐阜県と瑞浪市が文書開示 トンネル完成が「最善」と断言、JR東海の姿勢浮き彫り /愛知
JR東海が岐阜県瑞浪市で進めるリニア中央新幹線トンネル掘削工事に伴う井戸などの水位低下問題は、要因とみられるトンネル内の湧水(ゆうすい)が止まらず、工事は足踏み状態だ。岐阜県や瑞浪市が毎日新聞に開示したJR東海と地元とのやりとりを記録した文書からは、トンネル工事を優先しようとするJR東海の姿勢や情報共有のあり方に、地元が強く反発した様子がうかがえる。【太田圭介】
問題の発端は2月20日。狭い盆地に水田が広がる瑞浪市大湫(おおくて)町で、トンネル工事現場近くに設置された観測用井戸の水位低下が確認されたことだ。だが、JR東海は5月1日までこの事実を県へ正式に報告していなかったことが判明。これに反発した県と瑞浪市の申し入れを受け、工事は即時中断を余儀なくされた経緯がある。
面談で強気主張
工事中断に至るまでには何があったのか。
県の開示文書によると、5月14日、JR東海の担当者と県、瑞浪市の部長が県庁で面談した。同社担当者は「工事を止めたからと言って地下水位低下が収まるわけではない」「トンネルを早く完成させ、早く復水できる環境を作る方が最善」と主張。その一方、工事を続けた場合の水位低下への影響についても言及し「拡大する可能性を否定できない」と説明した。
県の担当者は毎日新聞の取材に、面談でのJR東海側の発言を認めた上で、「この発言を受け、JR東海に『いったん立ち止まり、真摯(しんし)に対応すべし』と要請した」と明かす。
一方、JR東海は発言について「トンネル完成にこだわったわけではなく、環境保全計画で示したことを進めたいとの趣旨だった」と釈明する。
瑞浪市の公文書によると、3月11日の面談では、JR東海は水位低下について「県へは口頭で報告済み」と説明した。だが、県はJR東海から説明を受けた覚えはなく、同社に真偽をただすと、「減水が確認されていると一報した」と説明。県幹部が「県担当者に何度も確認しているが、記憶も記録もない。(井戸の)枯渇など厳しい状況というのは伝えたのか」と問い詰めると、同社は「そういうことは伝えていない」と認めた。
こうしたやり取りについて、同社は取材に「県の担当課に出向いた際に口頭で伝えたが、『報告』とは言えない中身だった」と対応の不備を認める。その上で「内容をまとめてから県に報告しようと考えた結果、資料を用いて県に報告したのが5月1日になってしまった」と話した。
「感情の不一致」
面談前日の13日にあった住民説明会。県の公文書の記載には「住民の方が興奮しており、厳しい意見が続いた」とある。住民が「工事をいったん止めて水について調査してはどうか」と意見すると、同社は「しっかり確認しながら掘削させてもらう」と譲らず、反発した住民が「(会社)上層部が来て説明を」と追及を受けていた。
また、市の公文書によると、住民説明会で同社が「本件がマスコミに知られると困る」と発言。住民から発言の意図を問われた同社が「取材などでご迷惑をおかけするのを懸念した」と説明すると、住民から「マスコミが動いても困ることはない」とたしなめられる一幕もあった。同社はこのやりとりを認め、取材に「私たちと住民の方々との間で感情の不一致があった」と語った。
地盤沈下17カ所
大湫町のトンネル工事現場付近では10月25日までに17カ所の調査地点で地盤沈下も確認されている。同社は住民から個別に質問を受ける機会を設けたほか、建物の傾きと床の亀裂を調査する様子を報道陣に公開した。積極的に説明責任を果たし、自治体や住民との相互理解を深めるのが狙いとみられる。
リニア中央新幹線の品川―名古屋間は9割がトンネル区間で、今後、同じ問題が他区間で発生する可能性は否定できない。同社が沿線住民から信頼を得られるのかは、大湫での今後の対応が試金石になりそうだ。
◆岐阜県瑞浪市大湫町での地下水位低下問題へのJR東海の対応の経緯
2月20日 JR東海の観測用井戸3カ所で水位低下を確認
26日 共同水源(全5カ所)のうち1カ所で枯渇を確認
共同水源での水位低下を瑞浪市に報告
3月10日 大湫地区住民総会で共同水源の現状を説明
地元感情を考慮して12日までトンネル工事を中断
4月14日 共同水源で2カ所目の水位低下を確認
18日 個人所有の井戸でも水位低下を確認
29日 共同水源で3カ所目の水位低下を確認
5月 1日 水位低下について岐阜県に報告
13日 住民説明会で工事続行の方針を説明
14日 県・市との面談でトンネル完成まで工事続行の意向示す
16日 県・市が工事の即時中断を申し入れ
丹羽俊介社長が記者会見で、地質が安定する場所まで掘削してから工事を中断すると説明
17日 機器点検のため工事を一時中断
20日 工事の即時中断を公表