「リニアはつまらない」 鉄オタの石破新総裁、以前は計画に慎重見解 | 毎日新聞
自民党総裁に選ばれた石破茂氏は、政界随一の鉄道好きとして知られ、リニア中央新幹線に一家言を持つ論客でもある。リニアに需要はあるのか、国の融資を使う理由は十分説明されているのか、地方の鉄道は置き去りではないか。石破氏が抱く疑問は尽きない。5月にインタビューした際には「鉄オタとしてさ、リニアほどつまらないものはない」とも漏らしていた。その理由とは――。【聞き手・原田啓之、佐久間一輝】
(以下は、2024年5月に掲載した記事を再構成したものです)
リニアの議論「熟していない」
――リニアのトンネルは静岡県北部の南アルプスを通るため、そこを水源とする大井川の流量が減少する懸念があります。
◆静岡工区をどうすべきかについてはいろんな世論調査があり、質問の仕方によって全然答えが違う。(県民の)反対が多いとか賛成が多いとか一概には言えない。ただ、水源の問題は本当に大丈夫か、きちんと答える義務が施工者側のJR東海にはあります。
――静岡県民からは、リニアをつくったところで県内に駅ができるわけでもなくメリットがあまりない、という声が聞こえます。
◆「うちに何のメリットがあるんだ」と言い出したら、いろんな計画が成り立たなくなっちゃいます。それよりも、静岡工区に限らず、そもそもリニアって何だったのか、本当に東京から大阪まで通すリニアが必要なのか、という議論が十分成熟したと私は思っていないです。
リニア中央新幹線の実験線車両=山梨県都留市で2020年10月19日、梅田啓祐撮影
「のぞみ」は遅い?
――JR東海はリニアをつくる意義について、東京―大阪の輸送を二重にして東海道新幹線の老朽化や大規模災害に備えることと、移動の時間短縮と説明しています。東京―大阪は東海道新幹線で約2時間半なのに対し、リニアは67分で結びます。
◆1980年ごろ、(旧国鉄は)東海道新幹線を半日くらい運休して「若返り工事」をしていたけど、最近はしていないね。東海道新幹線が老朽化したからリニアが必要というのは、論理の飛躍がないだろうか。
昭和30年代に、ビジネス特急と言われた特急「こだま」が(在来線の)東海道線を走り始めた頃、東京―大阪は約6時間半かかりました。スピード、輸送力の面においても東海道線が限界に来ていたので、東海道新幹線をつくることには十分な合理性があった。
ところが今、東京―大阪を2時間半で走る「のぞみ」が遅いと思う人は、どれぐらいいるのか。そう思う人は飛行機に乗るでしょう。もっと速い電車へのニーズは、どこにあるのだろうね。
リニアだと、東京―大阪が67分といっても、出発は品川からだし、駅は大深度の地下にある。駅での乗り換えを含めたら、時間はもっとかかる。そういうところまで検証されているのか。少なくとも私は納得したことがないですね。
「破格の融資」
――リニアはJR東海が自己資金で整備する計画ですが、工事を早めるため国の財政投融資3兆円が充てられます。
◆これから人口が減り、2100年には日本の人口は5200万人になっているかもしれない。利用者、料金をどう設定するのか、という疑問もある。
国民負担を一切求めないと言っていたにもかかわらず、結局は3兆円の財政投融資を使っている。私は昔、銀行屋でしたけど、(今回の財政投融資のように)約30年間も(返済)据え置きの融資を聞いたことがない。民間では絶対ない、破格の融資だったに違いない。
私が自民党の総務会のメンバーのときに、リニアの計画が総務会に諮られました。もちろん安倍(晋三)さんの全盛時だから、皆さん賛成でした。
だけど、このリニアによって東京―名古屋―大阪が一つの「スーパー・メガリージョン」になって地方の発展につながると言われるが、その理屈がよくわからない。東京一極集中から、メガリージョン集中へ加速するだけじゃないのか。
10兆円を超えるとも言われる建設費を使って、リニアがめでたくペイできた(採算が取れた)としても、それが地方の発展につながらないと、結局は国力が衰退する。そのお金があったら、地方の鉄道を高速化するとか、利便性向上とかにもっと使えるんじゃないでしょうか。
5月のインタビューで、リニア中央新幹線について話す自民党の石破茂氏=衆院第2議員会館で2024年5月8日、宮間俊樹撮影
「安倍さんと葛西さんでないと」
――政府は3兆円を融資してでもリニアを早くつくらせようとしているのに、地方の鉄道への支援は不十分だということですか。
◆そこには思想の問題もあります。なんで鉄道だけは鉄道会社がインフラも整備するのか。例えば、JAL(日本航空)やANA(全日空)が羽田空港をつくって維持費を出せと言われたら、経営が成り立たない。
鉄道という公共インフラは赤字だろうと、税金で維持すべきものです。二酸化炭素の問題やドライバー不足で、鉄道の重要性は増しています。欧州では、なるべく飛行機を減らして鉄道に振り替えている国もあります。
ところが、日本ではそういう議論がほとんどない。「夢の超特急」の令和版みたいな話ばかりが先行して、本当にそれでいいのかなって思いはあります。
――政府はなぜ財政投融資を使ってまで、リニアを前倒しでつくろうとしたのでしょうか。
◆そこは安倍さんと葛西さん(葛西敬之・JR東海名誉会長、2022年に死去)でないとわからないでしょう。(2人は)頻繁に会っていたけど、そこで何が話し合われたんだろうね。
国民負担に値するものであれば、ちゃんとそう言えばいい話ですよ。私がそう言うと、安倍批判みたいに思われるんだけど、そんなこと言ってるんじゃない。ちゃんと(国民に)わかるように説明してほしいんです。
――リニアは工事が進んでいて、駅の予定地周辺でも用地取得が進んでいます。この段階で計画を止めることは、あり得るのでしょうか。
◆太平洋戦争が止められなかったように、「何とかなるさ」と始めたプロジェクトっていうのは止まらないのかもしれない。
「納税者が納得する説明を」
――リニア計画を止めた方がいいと思いますか。
◆(JR東海や政府が)疑問にちゃんと答えて、私が「なるほどね」と思ったら、リニア大推進派です。私は反対派じゃありませんから。そういう疑問にちゃんと答えないまま進むことが、リニアの計画にとっても不幸なことではないか。財政投融資とか国のスキームを使うのであれば、納税者が納得する説明をしていただきたい。
でも、鉄オタとしてさ、リニアほどつまらないものはない。景色が見えないんですよね。車内は狭い。車内販売もきっと来ない。旅ではないね。もうあれは移動だよ。高速地下鉄だよね。別にリニアに恨みはないんだけどさ。