新幹線網の見えない未来 リニアは静岡以外も問題 | 週刊エコノミスト Onlineから | 週刊エコノミスト Online | 毎日新聞「経済プレミア」






北陸新幹線が3月に敦賀駅まで延伸したが、その効果は軽微にとどまっている。新幹線網がさらに広がることが期待されるが、その見通しは不透明だ。

 2024年3月16日、北陸新幹線は敦賀まで開業した。15年3月の金沢開業では、それまでの上越新幹線越後湯沢駅での乗り換えがなくなったことによる効果が大きく、首都圏の人たちにとって北陸地方が気楽に行ける地域となり、北陸に大きな経済効果をもたらした。

 しかし今回の延伸では、関西圏からは敦賀駅での乗り換えが増え、東海道地区からは米原駅と敦賀駅の2度の乗り換えが必要となった。

 開業初日は、金沢―福井間の利用者はコロナ前の19年(同日)に比べて41%増加した。しかし開業ブームはほぼ1日で終わり、4月15日までの1カ月間では同12%増。首都圏から福井への利用が東海道新幹線経由に比べて北陸ルートの方が早くなったことによる効果にとどまった。

 一方でゴールデンウイーク中の「しらさぎ」(米原―敦賀間)が前年比で下りが49%、上りが53%に、「サンダーバード」(京都―敦賀間)が同下り90%、上り91%と減少した。

 京都方面は敦賀駅まで直通する在来線の新快速へのシフトが考えられるが、米原方面では近江塩津駅での乗り換え(大阪方面からの米原駅までの新快速が近江塩津駅まで直通)が必要で接続も悪いのでほぼ利用できない。「しらさぎ」の半減は純減と考えてよいだろう。減った分の一部は高速バスに流れたとされる。
今後の延伸は不透明

 今後の新幹線網の拡大についての見通しは不透明だ。北海道新幹線は、30年度末の開業を目指して、工事が進められている。しかし全線の8割がトンネルであり、渡島(おしま)トンネルで新函館北斗側の入り口から約6・4キロの地点の地表に陥没がありトンネルに土砂が流入、羊蹄トンネル比羅夫工区でトンネル断面を超える岩塊が出現して、一時工事が中断した。

 その後、岩塊を迂回(うかい)する先進坑を掘って裏側から破砕工事を行い、工事を再開した。ただほかに4カ所の岩塊が確認されている。これらのため3〜4年程度の工事の遅れが見込まれている。

 北海道庁や沿線自治体は、新幹線と高速道路による高速交通のネットワークの整備を求めており、並行在来線の維持については消極的な立場で一貫している。長万部以南は北海道と本州を結ぶ貨物輸送の大動脈であることから、国による調整が求められる。
 

 西九州新幹線は22年9月23日、長崎―武雄温泉間が開業した。開業後1年間の利用者は18年比102%で、コロナ前とほぼ同じ。最初の1カ月は102%、2カ月目は108%と上昇したが、その後は低下し、12月23日からの1カ月は100%、1月23日からの1カ月は91%と低下した。6月23日からの1カ月は114%と増加したが、これは23年の7月に九州を襲った豪雨の影響である。


 現在末端のみの運行で、もともと開業後速やかに残る区間の事業着手の考えであったが、佐賀県は、国による武雄温泉―新鳥栖間のフル規格着工の方針に抵抗し、まずは地元での合意形成が必要という立場に徹している。今までは政府・与党の合意を根拠に、国が計画をリードして、地方はその決定を受け入れざるを得なかった。今回の佐賀県の姿勢は、従来の仕組みに対する問題提起である。

 北陸新幹線は、敦賀駅での乗り換えが関西圏や中京圏からの鉄道利用を阻害していることが見えてきた。しかし、大阪延伸は22年後も危うい状況である。

 大阪への延伸計画は、当初計画では31年度着工、46年度以降開業となっていたが、20年の与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチームで23年度の着工を決議していた。しかし着工条件が満たされず、23年度に調査費12億円、24年度に同14億円を計上した。また地元住民の反対で環境影響評価の手続きが遅れており、着工の見通しは立っていない。

 敦賀―新大阪間のうち8割がトンネル区間で、当初工事費約2・1兆円と見込んでいたのが、つい最近、国土交通省と鉄道・運輸機構の試算で、3・9兆円に膨らむ結果となったことが報道された。
 
リニアは静岡以外も問題

 リニア中央新幹線については、5月に静岡県知事に鈴木康友氏が就任した。コミュニケーションが取れなかった前任の川勝平太氏とは違って、話が通じることが静岡工区のこれからの展開に期待が持てる。しかし静岡以外でもいろいろと問題があり、特に5月に明らかになった岐阜県瑞浪市でのトンネル工事による水枯れの問題は、これからの工事が必ずしも順調にはいかないことを想像させる。

 東海道新幹線は、7月22日に保線車両が衝突事故を起こし終日運休になった。東海道筋の新幹線と在来線は日本の最重要の大動脈である。輸送量が大きいにもかかわらず輸送設備は脆弱(ぜいじゃく)で、異常時には東西の交通がまひ状態に陥ってしまう致命的な問題を抱えている。東海道新幹線に代わってリニア中央新幹線が東西の大動脈の輸送を担うべきだが、当初計画の27年の開業は不可能で、いつ完成するのかは示されていない。

 リニア工事の遅延によって、東海道新幹線は大きな問題を引き起こしかねない。東海道新幹線の基本構造は1964年に開業した時のもので、その後の新幹線各路線に比べても低い規格である。本来は巨額の資金を投じて抜本的な若返り工事をすべきところ、リニアの建設に伴い、脱線対策、地震対策など必要度の高いものに限定した。現在のような過酷な使い方がいつまで続けられるのか、危惧される。(佐藤信之・交通評論家)