「昭和史のたいまつ」石橋湛山に学ぶ非戦 保阪正康さん対談／中 | 毎日新聞
こんな素晴らしい先輩を輩出した母校出身なのですが、極右の様な国会議員も同窓という不甲斐なさ。
赤池、中谷さんよ！ 石橋湛山先生の本ぐらい読んだよな？
石橋が、当時の甲府中学で留年したことで、大島正建校長に出会い、その薫陶をうけ人生が変わる。まさに教育が石橋の未来を決定付けたのである。
以下記事
来年で戦後80年。戦争の記憶と記録の継承が課題となる中、非戦の誓いを守るにはどうすればいいのでしょうか。昭和史研究の第一人者でノンフィクション作家の保阪正康氏（84）が、毎日新聞の前田浩智主筆によるロングインタビューに応じました。7月発売の「未来への遺言 いま戦争を語らなきゃいけない」（晶文社刊）に収録された一問一答の中から、その一部を3回に分けて紹介します。中編は、学ぶべき先人についてです。【構成・栗原俊雄、福永方人】
前編：「天皇の戦争責任」は 保阪正康さんが語る戦争と皇室
後編：戦争を総括できない日本の課題とは 保阪正康さん対談（8月9日午前7時に公開予定）
国際社会に語り継ぐべき存在
保阪 先達が明治から近代史、現代史の中で残した資料、残した証言、残した記録の中で、誰が一番私たちに訴求力を持って迫るのか。私は誰の話を聞きたいか、誰の意見に立脚するのがいいのかと言えば、結局、石橋湛山（元首相）になると思いますね。
5、6年前に作家の井出孫六さんが、「石橋湛山を読む会」をやろうと呼びかけたんです。（作家の）半藤一利さんや私など何人かで勉強会をやったんです。その時に、日本の言論人、近代史の中では、石橋湛山と桐生悠々（信濃毎日新聞元主筆）じゃないかと。この人たちを忘れたら日本のジャーナリズムは存続し得ないんじゃないか、もう一回彼らを読もうということになった。それで、「石橋湛山を読む会」が始まったんです。井出さんは2020（令和2）年に残念ながら亡くなり、会は自然消滅しましたが、半藤さんと「石橋湛山を復権しなきゃいけない」と話しました。石橋湛山を国家的な、国民的な財産にしていく必要があると井出さんはお考えになっていた。
石橋の残した物を読み進めるにつれ、国際社会に語り継ぐべき貴重な存在だと感じました。このような人物を存在せしめた日本社会はある健全さを持っていたと思います。
「小日本主義」を主張
前田 具体的にはどこにひかれたのですか。
保阪 彼が「東洋経済」で書いてる評論、持論が、一つの方向性だと思います。それは何かと言えば三つのポイントがあります。一つは帝国主義、大日本帝国主義っていうようなものを廃する。彼は、「小日本主義」という言葉を使っています。日本は、海外に出て植民地を持つ必要はない。それは経済的にけしてプラスにならない。しかも、植民地にされた国の恨みとか歴史的怨念（おんねん）とか、そういうものを付加していくとプラスにならないと早くから言っている。
もう一つは、軍事というものが国家の、社会の前面に出てはいけない、政治が軍事をコントロールすべきだ。三つ目は、彼の生きた時代には、彼の言葉ではまだ出てないんですけど、基本的人権、市民的権利が容認されていないのはおかしい、と言っている。例えば女性の権利はなぜこんなに低いのか、と。
言論人としての闘い
前田 石橋評をもう少し詳しくお願いします。
保阪 二つの視点から見る必要があります。まずは長期的視点です。
インタビューに応じる保阪正康さん＝晶文社提供
�‘映�代の歴史的人物との対比を通してみる教育内容
�⊃神喫歇蕕箸い�識見、理念を理解する人的系譜
��実学のあり方を身をもって示した知識人の先達
�じ析世鮓⇔呂箸寮錣い良雋錣僕僂い診塾呂叛鎖�
�，砲弔い童世┐弌�同じ1884（明治17）年生まれの東条英機、山本五十六と石橋を比較してみると、さまざまなことが分かります。さらに官僚として「農政の神様」といわれた石黒忠篤をあげても良い。近代の陸軍、海軍での人材教育と私学の独自の学問体系を学んだ人物の歴史的普遍性、私たちはどちらに価値を見いだせるだろうか。近代の官制のカリキュラムがいかに人材の養成に失敗したかをこの比較の中から見ることができます。
�△砲弔い討蓮∧歇蕕砲呂い�つものパターンがありますが、真正保守は例えば福澤諭吉らを頂点に識見、意見を明確にしています。石橋には真正保守の真の系譜を守ったという評価を与えるべきでしょう。
��の実学とは、社会にあって、自らの努力で、自らの頭脳で、さらには自らの感性で学び、それを社会に還元していく。石橋の人生は実学の人生です。彼は日蓮宗の寺に生まれましたが、宗教書以外も幅広く読み、独学で経済や外交の要諦を学んでいきました。こういう人物はそうは多くはない。
�い論亢兇蓮⇔鮖謀�には言論人としての闘い方を定着させた人物です。言論の持つ真の意味は、その闘いを狭い範囲に限定しながらだけではなく、広く人類が獲得した基本的権力と見て、重視するほどの闘いであった。これらの点を検証する必要がありますね。
「保守哲学」植え付けた功績
前田 短期的に見ての評価はいかがですか。
保阪 彼の生きた時代に限定し、その範囲内で石橋を解析していく。石橋の役割も限られるが、それでも桁外れであるとの人物像が浮かんできます。つまり、
訪中して毛沢東（右端）と会見する石橋湛山夫妻＝1959年9月
�ゞ畭綮砲慮析誠佑噺渋綮砲寮�治家
�⊇ゞ気鳩从僂旅舁�的融合
�７撹瑤�らの弾圧とGHQからの追放
です。�，龍畭綮砲埜析誠佑箸靴得犬�た石橋は、言論が果たしうる役割とその限界を身をもって知りました。戦前から発信していた自らの言論を、実践活動の場で試していくというのが戦後の生き方でした。一身をもって二生を生きることにもなりましたが、首相の座についても健康状態を崩して志を果たすことはできなかった。しかし自民党の中に保守哲学を植え付けた功績は大きいですね。
弾圧に妥協せず
�△禄ゞ気良朸機△△襪い蝋�宣流布という側面で捉えがちです。しかし石橋は自らの経済理論には、日蓮宗の僧侶としての顔は一切出しませんでした。ケインズなどの経済理論を自らで学び、その理論から現実社会を見つめ、そしてリベラルな社会的意見を世に訴えました。
その意味では石橋は自らの信仰を言動の原点に据えていたにせよ、しかし経済理論、社会分析の理論は、別のものであると一線を引いていました。それは強権力に抵抗する時の、あるいは弾圧を受ける時の自らを守る重要な武装というふうに考えていたとも言えます。
��の軍部からの弾圧、GHQからの根拠のない追放は、自らの言論や行動に不当に言いがかりをつけてくる時には石橋は一切妥協しない姿勢をとっています。
戦前で言えば、石橋は帝国主義、大日本帝国主義というようなものに反対する。さらには、軍事が社会の前面に出てはいけないとか、女性の権利の低さへの批判でしょう。それから例えば乃木神社を造るというようなことへの、あるいは明治天皇のある種の偶像化するような空間を造ることに対して反対をしてるんですね。
自らの人生に責任を持つ
前田 石橋は戦後、吉田茂内閣で大蔵大臣に就任しましたが、GHQによって公職追放されています。
保阪 大蔵大臣になって、GHQの将校が私用の経費を予算に乗っけてきて「敗戦国なんだから支払え」とでもいうように押しつけてきました。石橋は「そちらの国の問題」というように、原則はきちっと言える。それはGHQから見ると「生意気だ」ととられて結局パージに遭うわけですね。「軍事政策に協力した」という理由で。そんな理由でパージに遭うのは石橋にとってプライドを傷つける以外の何ものでもなかったでしょう。
7月に発売された「未来への遺言 いま戦争を語らなきゃいけない」の表紙＝晶文社提供
軍部にしろGHQにしろ、ある権力が社会に広がり、まさに全ての人に網がかかっていく時に、石橋はそれに諾々と従ってはいない。そういう人格の根の部分に石橋は何を据えていたのか。石橋を望遠鏡で見た場合と顕微鏡で見た場合の視点のあり方を整理してみると、自らの人生に対して自らが責任を持つという人生観を持っていたのでしょう。石橋がそうであったように、私たちの人生には葛藤期がある。そして闘わなければならない時は闘わなければいけない、といった当たり前のことが理解できてきます。
彼が戦後の年譜につづられているだけで、私たちの国はなんかほっとする。いきなり「憲法改正、再軍備」を旗印にした鳩山一郎から「安保改定」の強権的な岸信介へと続くのではなくて、その間に石橋湛山がいたことによって私たちは昭和の歴史の中のある松明（たいまつ）を見ることができる気がします。
保阪正康（ほさか・まさやす）氏
1939年、北海道生まれ。同志社大卒。近現代史研究で延べ4000人の証言を得た。昭和史研究の業績で2004年菊池寛賞。「昭和史七つの謎」「東條英機と天皇の時代」「近代日本の地下水脈�機廚覆秒�書多数。
