<社説>リニア工事 責任ある建設主体たれ:東京新聞 TOKYO Web




岐阜県瑞浪市大湫(おおくて)町で住民が飲み水などに使っていた井戸の水位が低下し、JR東海はリニア中央新幹線のトンネル工事を一時中断した。JRは着工に先立つ環境影響評価で地下水に影響が出る可能性に言及しており、いわば「想定内」とも言えるが、地元の動揺は大きい。他の沿線地域を含めていっそう丁寧な対応を心掛けねば住民側の不安は払拭できまい。
 周辺では今年に入り、瑞浪市を東西に貫く日吉トンネル(全長14・5キロ)の掘削が始まり、直後から井戸やため池など14カ所で水位の低下が確認された。工事による湧水が原因とみられ、既に枯渇した井戸もある。JRは代わりの井戸発掘や上水道につなぐ費用を負担するというが、当然の対応だ。
 看過できないのは、JRが2月に異常を把握してからも工事を続け、事実関係の公表や岐阜県への報告が今月まで遅れたことだ。さらに公表後も工事を続ける考えを示し、その後、地元の反発を受けて即時中断した。これでは住民側に寄り添った対応とは言い難い。
 JRは、リニアの2027年開業を断念した理由として、南アルプストンネル(静岡市)工事が大井川や南アの地下水へ与える影響を懸念する静岡県からの同意が得られなかったことを挙げた。7年近い地元との協議を通じ、地域を支える「命の水」という意識を共有したのではなかったのか。
 リニアは、そのルートの9割近くが地下空間だ。トンネル工事はボーリング調査などを通じ、地質を見極めながら掘削するが、最新技術をもってしても、実際に掘ってみないと何が起きるか分からないのが現実という。破砕帯に当たれば大量の湧水は避けられない。
 リニア開業の経済波及効果は10兆円超と見込まれるなど、わが国史上最大規模の事業だ。34年以降にずれ込んだ開業までには、この先も、大小のトラブルが生じることはあろう。地域への丁寧な説明や沿線自治体との密接な情報交換はもちろんのこと、何か事が起きればいち早く情報開示する姿勢に徹してこそ、JRが約束した「責任ある建設主体」と言えよう。