中央構造線や蛇紋岩 もろい地質に直面 大鹿村のリニア工事〈山と人と信州と〉|信濃毎日新聞デジタル 信州・長野県のニュースサイト




リニアが必要な訳でなく、リニア工事が必要な人々の罪


以下記事

南アルプスや伊那山地を横切るように工事が進む下伊那郡大鹿村内のリニア中央新幹線。トンネルの掘削に当たっては、国内最大級の断層「中央構造線」(MTL)や蛇紋岩と呼ばれるもろい地質の影響を受けている。大鹿村内のリニア工事は、どんな岩石を掘り抜こうとしているのか。

■トンネルで貫く四つの帯 境界の構造線も

 大鹿村を南北に走る国道152号は深い谷筋を通っている。この谷はMTLの通過線とほぼ一致している。かつての断層の動きによって、谷の両側の岩石はもろくなっている。この部分が長期にわたって浸食されることで深い谷が刻まれてきた。

 MTLは大鹿村内を通過するだけでなく、遠方まで続いている。北は茅野市―伊那市境の杖突峠、さらには東方の関東地方へ。南は飯田市を通って、静岡県やその先へと延びる。大鹿村内で南北方向だった断層線は、愛知県に入ると北東―南西方向に変わり、西方の紀伊半島、四国、九州では東西方向となっている=図1。

 地質に着目すると、MTLに並行して同じ岩石が帯状に広がっているのが特徴だ。それぞれの帯に名前が付けられている。紀伊半島以西を見ると、MTLの北側には「領家帯」、南側には「三波川帯」「秩父帯」「四万十帯」が順に並ぶ。これら四つの帯が大鹿村内では南北方向となり、西から東へ「領家帯」(MTL)「三波川帯」「秩父帯」「四万十帯」となっている。

 大鹿村内を東西に横切るリニアは、この四つの帯をトンネルで貫いていく。掘り抜くことになる岩は花崗(かこう)岩類や変成岩、堆積岩などさまざま。四つの帯の境界はいずれも、大きな断層の連なりである「構造線」と呼ばれ、ここを境に地質は大きく変わる。その代表格と言えるのが領家帯と三波川帯の境界をなすMTL。さらに三波川帯と秩父帯の境は戸台構造線と呼ばれ、秩父帯と四万十帯の境界をなすのは仏像構造線だ。

 リニア中央新幹線の環境影響評価書から主な岩石を挙げると、領家帯には花崗岩類やマイロナイトなど、三波川帯の西側には黒色片岩や緑色片岩、石英片岩など、東側には緑色岩やハンレイ岩、蛇紋岩などが見られる。さらに、秩父帯には砂岩や粘板岩、チャート、石灰岩など、四万十帯には砂岩や粘板岩などが分布している=図2。

■蛇紋岩とはどんな岩石なのか

 3月21日に開かれた大鹿村リニア連絡協議会で、JR東海は村内での工事状況について説明。伊那山地トンネル青木川工区(3・6キロ)ではMTL、この東にある南アルプストンネル長野工区(8・4キロ)では蛇紋岩によって本坑の掘削が影響を受けているという。

 MTLは大断層としてよく知られているが、蛇紋岩とはどんな岩石なのだろうか。

 大鹿村中央構造線博物館の学芸員兼顧問・河本和朗さん(73)=大鹿村=によると、地下深くでできたカンラン岩が水と反応することで生じるのが蛇紋岩。主な構成鉱物である蛇紋石は結晶が粘土に近く、力が加わると変形しやすい。地すべりの原因にもなるという。

 トンネル工学の専門家によると、蛇紋岩は「塊状」「葉片状」「粘土状」など、さまざまな状態で存在する。水と反応して膨張し、トンネルの構造にも圧力として作用する。掘削時だけでなく、維持管理においても非常に留意すべき岩種の一つ。岩石の膨張による変形が生じる場合、長期間にわたって続くと考えられている。

 蛇紋岩の全国的な分布をみると、構造線などに沿って分布しており、トンネル工事の際には配慮が必要になる。石綿鉱物を含むため、健康被害への対応も求められるという。

■徐々に踏ん張りどころへ

 長野工区で蛇紋岩が出ているのは、小渋川非常口から掘り進んでいる部分。環境影響評価書の地質図で確認すると、三波川帯のエリアに当たる=図3。JR東海広報部によると、先進ボーリングで蛇紋岩が約100メートルにわたり続いていたといい、本坑工事ではその部分を慎重に掘削。また、石綿などの対策として蛇紋岩は坑内に仮置きするなどの対応を取っている。

 これとは別に、大鹿村内の三波川帯には蛇紋岩の大きな分布が知らせている。河本さんによると、村北部にあるのが塩川岩体、村南部には大河原岩体。リニア工事では青木川工区が大河原岩体を東西に貫くことになる。

 青木川工区の青木川非常口からの掘削は、伊那山地東面の領家帯から東へ進み、MTLを横切って三波川帯に入る。黒色片岩や緑色片岩などを掘り進むと蛇紋岩のエリアになる=図3。JR東海広報部によると、本坑工事はまだこの蛇紋岩エリアに入っていないという。

 青木川工区の蛇紋岩に加えて、長野工区は南アルプスの稜線(りょうせん)に近づくにつれてトンネル上にある岩盤が厚さを増していく。大鹿村内でのリニアのトンネル工事は徐々に踏ん張りどころへと向かっていく。

(編集委員・藤森秀彦)