ネボモ:列車もリニアもGo 既存レールに磁力、車体浮上 ポーランド企業、実験成功 | 毎日新聞
鉄道もリニアモーターカーも――。ポーランドの新興企業が双方の「いいとこ取り」をした技術の開発を進めている。既存のレールの上を磁気で浮上して走行する技術で、フランス国鉄などが興味を示しているという。その新技術とは、果たしてどのようなものなのか。
車輪のついた車体がスピードを上げると、時速70キロあたりで2センチほど浮上し、そのまま時速135キロまで加速した。ポーランドの新興企業「Nevomo(ネボモ)」は昨年9月、同国南東部ノバサルジナの試験用線路で、重さ約2トンの台車を浮上走行させる実験に成功し、その動画を公開した。台車には車輪があるが、通常の列車のようにモーターが車輪を回転させて走るのではなく、車体と線路に設置した磁石の力を利用して走る。
「マグレール」と名付けられたこのシステムの特長は、既存の線路を利用する点だ。レールに電磁誘導システムを設置、車両側に磁石などを搭載しリニアモーターカーとして走行させる。将来は在来路線で時速300キロ、高速路線では時速550キロでの走行を目指している。
このシステムは、既存の鉄道網を生かせるのが最大のメリットだ。JR東海が建設中の超電導リニアモーターカーは専用の路線が必要で、建設には用地取得など巨額の費用がかかる。マグレールはすでに敷かれたレールに設置するため、コストが抑えられるという。線路に新たにシステムを追加しても、引き続き通常の列車も運行できる。
高速化だけでなく、鉄道の新たな活用方法も生まれるという。通常の列車では、動力を持つのは機関車だけで他の車両は自力では動けない。だが、マグレールでは電気と磁気が動力源のため機関車が不要で、電流などを遠隔操作することで車両一つ一つをばらばらに動かすことができる。
まずは貨物分野
ネボモは、この利点を生かし、まずは貨物分野で実用化を図る方針だ。コンテナを積んだ貨物車両一台一台を荷物運搬ロボットのようにそれぞれ動かすといった利用方法を想定。2024年前半に貨物の商用利用契約を締結し、同年中に限定区間での運行開始を目指している。
ただ、30年ごろを想定する旅客輸送の実現に向けては、超えるべき技術的なハードルが多い。旅客輸送では、実験で使った台車とは比べものにならないほど重い20〜30トンの客車を浮上させる必要がある。また、安全性の検証などもこれからだ。
それでも、欧州でこの技術が注目されているのは、気候変動対策に役立つと見込まれているためだ。欧州では、温室効果ガス排出削減の観点から短距離の航空便の使用を控える動きが広がっている。すでに張り巡らされた鉄道網をリニアにすれば各地への高速移動が可能となり、短距離航空便の代替手段になり得る。
欧州連合(EU)とポーランド政府は、計550万ユーロ(約9億円)の助成金を交付。EUはさらに、最大1750万ユーロの追加資金も用意している。また、仏国鉄SNCFやイタリアの国営鉄道インフラ企業RFIなども関心を示しており、すでに同社と協力のための覚書を交わした。
ネボモの創業者の一人で製品管理部長のカツペル・コニャルスキ氏は毎日新聞の取材に、「地球温暖化対策として、鉄道の再活性化を進めていきたい。欧州や日本の鉄道は利用率が相当高いが、まだ利用拡大の余地は大きい」と話し、日本進出にも意欲を示している。【ブリュッセル宮川裕章】