富士川の水の少なさ憂う 河川維持流量は全国に見劣り ガイドラインにも疑義(あなたの静岡新聞) - Yahoo!ニュース
「川の水が少なすぎて夏場は浅瀬の水が生温かくなる。水中の岩に生えた藻やコケがはがれて水面に浮いて濁り、清流を求めに来たラフティング客に申し訳なくなる」。富士宮市内房でラフティング会社を経営する佐野文洋さん(51)は富士川の水の少なさを憂う。
駿河湾のサクラエビの不漁をきっかけに、主産卵場に注ぐ「母なる富士川」の河川環境について、静岡、山梨両県民の関心がかつてなく高まっている。長年砕石業者が行ってきた不法投棄根絶に加え、流域住民が関心を寄せるのは、日本軽金属蒲原製造所(静岡市清水区)が戦時期から富士川水系で稼働させる五つの自家発電用水力発電所の巨大水利権。計毎秒187・7立方メートルの取水のための水利権が河川環境に大きなインパクトを与え続ける。
国は3月、同社発電施設の水利権縮小を念頭に、初めて富士川の河川維持流量を設定した。ただ、施設のある一部の区間では無期限の「猶予期間」を設け、地元から批判が根強い。
「(猶予期間は)いつまでなのか」。河川維持流量設定のため、国土交通省甲府河川国道事務所が昨年10月以降計4回開いた学識経験者9人による「富士川維持流量検討会」。あるメンバーが同事務所幹部に質問するも、具体的な答えは得られなかった。
学識経験者の1人は「十分な観測などがないまま、国は1年で維持流量を慌てて決めた。もっとじっくり決めるべきだった」と振り返る。検討会や決定過程が非公開で、流域住民が関与できなかったことを疑問視する専門家もいた。
実現した場合でも、国が河川維持流量の設定のガイドラインとしている「正常流量検討の手引き(案)」に示されている全国平均には遠く及ばない。
同手引きには「全国109の1級水系のうち62水系74地点における河川維持流量の平均値は流域面積100平方キロメートル当たり毎秒0・73立方メートル」とある。県境の芝川合流点―日軽金十島せきでは、100平方キロメートル当たり毎秒0・25立方メートルと全国平均の約3分の1に過ぎず、山梨大の岩田智也教授(水域生態学)は「高度に水利用がなされた状況下での調査結果に基づいて維持流量が設定された点に問題がある」と批判する。
さらに岩田教授は「(国がよりどころとしている)手引き自体や今回の算定方法が河川生態系の保全の考え方から大きく乖離(かいり)している」と指摘する。例えば「動植物の生息地または生育地の状況」を考慮する際、魚類を代表させ、基本的に底生生物(水生昆虫類)などは検討の外に置いている点。その魚類についても「必要水深は体高の約2倍を目安とする」などとあり、岩田教授は「一部の魚種の移動や産卵だけを考えるのではなく、個体群が持続的に存続できる環境を想定し、季節ごと、エリアごとにもっときめ細かな設定が必要なはず」とする。
富士川の河川維持流量 3月に初めて決まるまでなかった河川法上の環境保全の基本的目安。富士川流域16区画ごとに設定され、このうち県境の芝川合流点―日軽金十島せき、日軽金十島せき―日軽金塩之沢せきの2区間では同社の発電用水利権が巨大なため、実現までに本来の維持流量より少なく、期間未定の「猶予期間」が設けられた。初設定に当たり署名運動を展開した住民から批判がある。