石木ダム着工も抗議続く 強制収用に現実味 専門家は歩み寄り呼び掛け /長崎 | 毎日新聞
誰のための公共事業?
ダムが不要な事は、すでに専門家からも指摘されていて、ダム工事が欲しい人々のための
公共事業となっている
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川棚町に計画され、水没予定地に今も13世帯が住み続ける石木ダムで、土地・建物を強制収用する行政代執行が現実味を帯びてきた。1975年度に事業採択され、座り込みなどの活動で長年着工が見送られてきたが、今年9月、抗議の動きが続く中で、県が本体工事に着手した。現状のまま工事が進めば強制収用は避けられない。専門家は「代執行は双方が痛手を負う」とし、行政と住民に歩み寄りを呼び掛ける。
「これ以上の先延ばしは難しい」。ダムの本体工事が始まった翌日の9月9日、中村法道知事は険しい表情で語った。
県は、対話での解決を目指してきたと強調する。昨年11月ごろ「白紙撤回が話し合いの条件ではない」との住民側意向を受け、協議の機会を模索。しかし、協議のテーブルにも着けないまま、対話期限と設定した今年8月が過ぎた。県は「条件面で折り合いが付かなかった」とする。
現在のダム完成目標は2025年度。工期を見据えると、工事を進めざるを得ない段階だ。住民の土地の権利は既に消滅し、明け渡し期限も過ぎた。法的には、県はいつでも強制収用できる状態だ。裁判でも県の主張を認める判決が続く。
県によると、現時点で、工事に伴い今後収用対象となるのは、住民が抗議や監視のため40年以上前に建設した「団結小屋」。ただ担当者は、住宅も「いずれは対象になる」と話す。
一方、住民側が軟化する気配はない。岩永正さん(70)は「県は、ダムをつくってしまえば私たちが逃げると思っているんだろうが、そうはいかない」と憤る。
最近では、福岡県が15年、東九州自動車道の予定ルートで、用地買収に応じなかった豊前市のミカン園を強制収用した例がある。小屋などを撤去し、土地を西日本高速道路に引き渡した。国土交通省によると、国が直轄・補助するダム建設事業に関する代執行は、ここ10年間ほどでは把握していないという。
鹿児島大学術研究院の宇那木正寛教授(行政法)は、成田空港建設に反対する三里塚闘争の経緯から「力による執行は力による抵抗を生む」との教訓が得られたとする。「代執行の強行は行政への信頼を損ね、他の公共事業に協力が得にくくなる可能性がある。住民側にも喪失感が残るだろう。唯一の解決法は話し合いだ。交渉テーブルに着くため、まず双方の歩み寄りが必要だ」と指摘している。
■ことば
石木ダム
県と佐世保市が川棚町の石木川に計画するダム。佐世保市の利水と、川棚町の治水が目的。計画では総貯水量約548万トンで、事業費は約285億円。国が1975年度に事業採択した。県は82年、土地の強制測量に県警機動隊を動員して座り込む住民らを排除し、対立が深まった。県は2010年に水没道路の付け替え工事を始め、21年9月、本体工事に着手。建設に伴う移転対象のうち約8割の54世帯は既に転居し、13世帯が残る。
〔長崎版〕