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川辺氏(1970-)は工学系出身でこれまでの多くの著作があるようです。私は今回初めて氏の書を読みました。
そのせいなのか、しっかり参考文献や論文を引用して論理的にかつ一般人に分かり易く技術を説明しています。いわゆるサイエンスライターでもあるのでしょう。

すでにリニア中央新幹線の工事が始まり、財投の3兆円もJR東海に貸し付けられている。しかしながら工事凍結の裁判や静岡県での大井川の水問題での工事着工許可がなされず、2017年の品川―名古屋間の開通はほぼ不可能と言われています。また他県においても工事の遅延があり、さらにコロナ禍での大幅な新幹線乗客数の減少も続いている(2020年12月現在)。
さて、本書では、そのような流れの中で、果たしてリニア新幹線構想が歴史的にどのように推進されたのか、また技術的に世界および日本での開発の歴史と問題点などを丁寧に時系列と論文等から論考しています。自然保護や自然界という論点は本書では論じていません。

個人的にはそれなりにリニア関連の書籍は読んで来て、なぜ、国策からJR東海の単独事業としてリニア中央新幹線構想が成立してしまったのかは、技術者の夢、それに乗った国鉄その後のJR東海、そして政治家がいたからだと認識していました。本書においても非常にその点を分かり易く説明しています。構想が出来た当時の財務当局(大蔵省)が予算を付けなかった事に関しては本書では触れていませんが、明らかに採算ベースでは無かったのだと思います。

技術論では、超電導磁石問題や台車部分のタイヤ(136個のタイヤが使われるという事を
初めてしりました)の安全性や耐久性の問題、そして騒音(いわゆる耳ツン問題や実験線での体験乗車時の感想)問題を分かり易く説明しています。
私の記憶では、鉄道総研(旧鉄道技術研究所)の一般向け書籍に21世紀には高温超電導どころか常温超電導も出来ていると書かれていたと思います。残念ながら実現していません。

またJR東海の民間事業だと思われていますが、リニア技術開発には多大な国費が投入されていますし、山梨実験線には山梨県の無利子融資が140億円あるという事も本書では触れられていませんが既成事実です。

そして最後に著者はリニア実験線は実は既成の従来方式での新幹線も走る設計になっているのではないかと指摘しています。非常になるほどと思う考察でした。

以上読んでみてネタバレになるのを避けるために帯から引用しておきます。
「国家的事業」の見直しを提言すると。

超電導リニアの不都合な真実
謙一, 川辺
草思社
2020-11-30