ガーナ国民が注目「ノグチ」の動向 日本支援研究所がPCR検査で活躍 - 毎日新聞



日本政府の支援で1979年に設立されたアフリカ西部ガーナの「野口記念医学研究所」(野口研)が、ガーナの新型コロナウイルス対策の拠点となっている。アフリカには検査や医療の体制が貧弱な国が多い中、培った人材や設備を生かし、これまでに約20万件のPCR検査を実施。同国内の検査の約8割の規模にあたり、「ノグチ」の動向が国民の注目を集めている。
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 「ウイルスなので非常に慎重に、安全キャビネットの中で扱っています」。5月10日、野口研内の先端研究所を視察に訪れたアクフォアド大統領に、所員がPCR検査の手順を説明した。内部の空気が外部に漏れ出さないように陰圧にする設備や、国内ではここにしかない最新の検査装置を備える。現在は新型コロナ対策でフル稼働しており、計120人のスタッフが昼夜交代勤務で検査を実施。ギニア湾に浮かぶ島国サントメ・プリシンペからも800検体を受け入れた。
野口記念医学研究所=ガーナ・アクラで(JICA提供)

 ガーナは福島県出身の野口英世が黄熱病の研究を行い、1928年に亡くなった場所だ。68年に国内最大規模のガーナ大学に医学部が設立された際、指導者や設備が不足していたため日本に支援を要請。野口の出身地の縁で福島県立医科大が中心となって指導者を派遣し、ウイルス学や栄養学、寄生虫学などで交流を進めてきた。

 79年にはガーナ大医学部の付属機関として野口研が設立され、当時、建築費や機材の費用など約25億円を日本政府が提供した。その後も感染症分野などで、国際協力機構(JICA)の支援を受けながら日本の研究者と交流が続いた。2019年にはエボラ出血熱対策などを念頭に、高度な実験や検査ができる施設として先端研究所が完成。日本政府は建設費約23億円を提供した。
野口記念医学研究所で新型コロナウイルス診断のPCR検査の準備をするスタッフ=ガーナ・アクラで2020年6月18日(JICA提供)

 日本が設備とともに支援に力を入れてきたのが人材の育成だ。JICAは野口研を地域の感染症対策の核にしようと、ナイジェリアやリベリアなど西アフリカ諸国から野口研での研修受け入れを支援。19年度には9カ国から計15人を受け入れた。野口研でPCR検査に携わる職員の中には、日本での感染症の検査技術研修を受けた人もいる。6月16日付の地元有力英字紙「ガーニアン・タイムズ」は1面トップで「ノグチがワクチン開発に着手」と研究所のコロナ対策を紹介するなど、野口研への国民の関心も高い。

 新型コロナでは交通や物流網が世界的に滞り、先進国から途上国に人や物の緊急支援を行うのが難しくなっている。それだけに40年以上にわたる現地支援の成果が今回、大きく表れたとも言える。野口研ウイルス部門の責任者、ウィリアム・アンポフォ教授は毎日新聞の取材に「JICAや日本政府がアフリカで行ってきた能力強化の取り組みが、医療基盤を向上、維持するのに役立ってきた」と話した。

 ガーナでは22日までに1万4154人のコロナ感染が確認され、85人が死亡している。また、野口研を含むガーナの検査機関では大量の検査をこなすため、まず複数の検体を一つにまとめてPCR検査を行い、陽性反応が出たグループのみを個別検査に回す方式を採用している。【平野光芳】