超高速列車、時速1200キロへ 減圧トンネル走行 :日本経済新聞
減圧した専用トンネルの中を列車が高速で走る超高速輸送システム「ハイパーループ」が海外で注目を集めている。米スペースX創業者、イーロン・マスク氏が技術設計を支援しているほか、中国やインドでは実用化の構想も進んでいる。日本では慶応義塾大学のチームが基幹技術の開発に取り組んでおり、存在感を高めている。
ハイパーループはチューブと呼ぶ減圧されたトンネルの中を、通常の地下鉄よりも小さい専用車両で、時速約1200キロメートルで走らせるものだ。マスク氏が2013年に基本構想を公開したことで、関心が高まった。実現すれば、600キロメートル離れたロサンゼルス―サンフランシスコ間を30〜40分でつなぐ。
輸送車両は速度が速くなるほど、空気抵抗が大きくなる。飛行機が高度1万メートルを超える上空を飛ぶのは、空気が薄く、抵抗が少ないのが一因となっている。チューブ内を減圧して、地上でも抵抗が少ない環境で走れるようにするのがハイパーループだ。
ハイパーループの建設はヴァージン・ハイパーループ・ワンとハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズ(HTT)が関心を示している。ただ、基幹技術は確立していない部分もあり、スペースXが17年1月から定期的にコンテストを開き、アイデアを競わせている。
ハイパーループの走行技術として検討されているのが、通常の電車のように車輪で走るタイプと磁力を使って浮かせるタイプだ。車輪の場合は新幹線を超えるような速さでも、軸受けへの負荷や摩擦、騒音を減らす技術が必要で、浮かせる場合はどのように浮上させるかが課題となる。
慶大は日本からコンテストに参加する唯一のチームだ。入賞経験はないが、17年8月のコンテストでは初めて完走したチームとなり、マスク氏から「システムデザインが素晴らしく印象的だった」と称賛された。
慶大は磁力で浮かせる仕組みを採用している。ただ、コンテストでは安価なアルミニウムのレールを敷いているだけのため、日本で実用化が進むリニア中央新幹線と同じ原理は使えない。
慶大は磁場を変えると、アルミのような磁性を持たない物質にも電流が流れ、磁石と相互作用をもたらす仕組みを採用した。車両に磁力の強い円盤状の永久磁石を取り付けて前進させると、レール上に一時的に電流が流れて、車両を浮かせる力が働くようにした。
車両を前に進めるための推進力を獲得する手法では、2つの方式を試している。17年に完走した際は前進にも磁力を使った。永久磁石を車両上の特定の箇所に取り付けて回転させることで、レールを流れる電流との相互作用を引き出し、推進力とした。
19年夏に予定されているコンテストではプロペラ機のようにプロペラで空気を後方に押し出し、その反動で前進する仕組みを採用する予定だ。飛行機が空気の薄い上空でも飛べる点に注目し、多少の減圧環境下ならば、プロペラ機の原理が使えるとにらむ。
7月のコンテストでは、ドイツのミュンヘン工科大学のチームが車輪で走る車両で時速466キロメートルの速さを出して優勝し、1年間で大幅に記録を伸ばした。慶大チームの車両は浮かせることができる分、速度を上げる余地は大きいとして、狼(おおかみ)嘉彰顧問は「次の大会で時速500キロメートルを出したい」と意気込む。
HTTは本格的な商業運転を見据え、中国やアラブ首長国連邦(UAE)で10キロメートル程度の路線を建設する計画だ。ハイパーループ・ワンもハイパーループでインドのムンバイ―プネを結ぶ計画を地元政府と合意した。30年ごろには飛行機や新幹線のように普及した輸送手段になることが期待される。
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超高速列車、時速1200キロへ 減圧トンネル走行
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2018/11/21 6:30
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減圧した専用トンネルの中を列車が高速で走る超高速輸送システム「ハイパーループ」が海外で注目を集めている。米スペースX創業者、イーロン・マスク氏が技術設計を支援しているほか、中国やインドでは実用化の構想も進んでいる。日本では慶応義塾大学のチームが基幹技術の開発に取り組んでおり、存在感を高めている。
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ハイパーループはチューブと呼ぶ減圧されたトンネルの中を、通常の地下鉄よりも小さい専用車両で、時速約1200キロメートルで走らせるものだ。マスク氏が2013年に基本構想を公開したことで、関心が高まった。実現すれば、600キロメートル離れたロサンゼルス―サンフランシスコ間を30〜40分でつなぐ。
輸送車両は速度が速くなるほど、空気抵抗が大きくなる。飛行機が高度1万メートルを超える上空を飛ぶのは、空気が薄く、抵抗が少ないのが一因となっている。チューブ内を減圧して、地上でも抵抗が少ない環境で走れるようにするのがハイパーループだ。
ハイパーループの建設はヴァージン・ハイパーループ・ワンとハイパーループ・トランスポーテーション・テクノロジーズ(HTT)が関心を示している。ただ、基幹技術は確立していない部分もあり、スペースXが17年1月から定期的にコンテストを開き、アイデアを競わせている。
ハイパーループの走行技術として検討されているのが、通常の電車のように車輪で走るタイプと磁力を使って浮かせるタイプだ。車輪の場合は新幹線を超えるような速さでも、軸受けへの負荷や摩擦、騒音を減らす技術が必要で、浮かせる場合はどのように浮上させるかが課題となる。
慶大は日本からコンテストに参加する唯一のチームだ。入賞経験はないが、17年8月のコンテストでは初めて完走したチームとなり、マスク氏から「システムデザインが素晴らしく印象的だった」と称賛された。
慶大は磁力で浮かせる仕組みを採用している。ただ、コンテストでは安価なアルミニウムのレールを敷いているだけのため、日本で実用化が進むリニア中央新幹線と同じ原理は使えない。
磁気を使って浮かせ、プロペラで進めることを想定する
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磁気を使って浮かせ、プロペラで進めることを想定する
慶大は磁場を変えると、アルミのような磁性を持たない物質にも電流が流れ、磁石と相互作用をもたらす仕組みを採用した。車両に磁力の強い円盤状の永久磁石を取り付けて前進させると、レール上に一時的に電流が流れて、車両を浮かせる力が働くようにした。
車両を前に進めるための推進力を獲得する手法では、2つの方式を試している。17年に完走した際は前進にも磁力を使った。永久磁石を車両上の特定の箇所に取り付けて回転させることで、レールを流れる電流との相互作用を引き出し、推進力とした。
19年夏に予定されているコンテストではプロペラ機のようにプロペラで空気を後方に押し出し、その反動で前進する仕組みを採用する予定だ。飛行機が空気の薄い上空でも飛べる点に注目し、多少の減圧環境下ならば、プロペラ機の原理が使えるとにらむ。
7月のコンテストでは、ドイツのミュンヘン工科大学のチームが車輪で走る車両で時速466キロメートルの速さを出して優勝し、1年間で大幅に記録を伸ばした。慶大チームの車両は浮かせることができる分、速度を上げる余地は大きいとして、狼(おおかみ)嘉彰顧問は「次の大会で時速500キロメートルを出したい」と意気込む。
HTTは本格的な商業運転を見据え、中国やアラブ首長国連邦(UAE)で10キロメートル程度の路線を建設する計画だ。ハイパーループ・ワンもハイパーループでインドのムンバイ―プネを結ぶ計画を地元政府と合意した。30年ごろには飛行機や新幹線のように普及した輸送手段になることが期待される。
超高速列車を巡っては、JR東海が最高時速約500キロメートルのリニア中央新幹線を27年に開業することを目指している。ハイパーループでもレールや側壁にコイルを設置して、リニア中央新幹線に近い原理を使うことはできる。ハイパーループ特有の課題は減圧したチューブへの対応だ。
チューブを減圧すると、車両内とチューブで気圧が違うので、通常の電車のように車両ドアを開けるだけでは、利用客が乗り降りできない。このため、宇宙ステーションのドッキングのように車両と外部を常圧でつなぐ方法などを取り入れる必要がある。
物資輸送で先行期待
車両の破損防止策も重要だ。車両の窓が割れた場合には気圧差があるため、飛行機のように外に吸い出されてしまい、大事故につながる可能性がある。通常の電車以上に安全性に気を配る必要がある。
ただ、鉄道総合技術研究所の調査研究では、減圧した環境を走る高速列車は、既存の高速鉄道よりも建設・運用コストが低くなるとしている。狼顧問は「コストと安全性を総合的に考慮すると、乗客輸送よりも、物資輸送の方が先行してニーズがありそう」と話す。
(科学技術部 大越優樹)