再び談合? リニア建設に独禁法違反の疑惑|日経コンストラクション


東京地検特捜部が偽計業務妨害の疑いで大林組を強制捜査したことに端を発するリニア中央新幹線工事の不正受注疑惑で、大手建設会社4社が談合をしていた疑いが持ち上がった。特捜部と公正取引委員会は12月18日、独占禁止法違反の容疑で鹿島と清水建設の本社に家宅捜索に入った。近く大成建設にも捜査が入る見込みだ。

最初に不正の疑いが浮上したのが、大林組・戸田建設・ジェイアール東海建設JVが受注した名古屋市内の「名城非常口」工事。12月8日に特捜部が大林組の強制捜査に踏み切った。

 当初は強制捜査が大林組だけだったので、同社が個別に他社に対して受注への協力を要請したと思われていた。しかし、その後の調査で、大手建設会社全体でお互いに受注を調整していた疑いが強まったものとみられる。リニア工事における不正疑惑が、一気に大手4社を含めた談合疑惑に広がった。

大手4社がほぼ均等に受注

 既に施工者が決まっているリニア関連の建設工事は22件。そのうち大手4社が受注した工事は15件に上る。内訳は大林組4、鹿島3、清水建設4、大成建設4と、ほぼ均等に受注している。いずれの工事も大手1社が幹事を務め、中堅数社とJVを組んでいる。

リニア建設工事の総額は、品川―大阪間でおよそ9兆円。民間企業であるJR東海が建設費用を全額自社で負担するとしている。工事は民間同士の契約なので、発注金額は明らかにされておらず、施工者の選定過程など不透明なところは多い。

 実際には、JR東海だけの資金で建設するわけではない。早期に全線開通させるため、国は16、17年度の2年間で総額3兆円の財政投融資を投入した。公共性が高い建設工事だからこそ融資をした背景がある。施工者の選定に当たっては、公共事業に準じた透明性が求められるはずだ。

 JR東海の社員が予定価格など非公表の情報を漏洩していた疑いも出ている。もし本当ならば、公共工事における官製談合のような状態だった可能性もある。

 一方、大手4社は16年度までの純利益が2期続けて過去最高を更新するなど、工事不足で困窮はしていない。むしろ、限られた人材を有効利用するため、受注を選別するケースも多い。そのような状態だから、各社の施工能力を考えて事前に受注を調整した方がスムーズに進むと考えたのかもしれない。


 JR東海は12月11日、「公正契約等調査委員会」(委員長:坪内良人・専務執行役員)を設置し、大林組に事情説明を求めている。大林組は14日、「捜査に全面協力する。真相の究明やコンプライアンスの徹底に取り組む」という趣旨のコメントを発表した。石井啓一国交相も12日の閣議後の会見で「捜査を見守りたい」と話すなど、今後の捜査が注目される。

工事 受注者
品川駅(南工区) 大林組・東亜建設工業・熊谷組JV
名城非常口 大林組・戸田建設・ジェイアール東海建設JV
名古屋駅(中央西工区) 大林組・ジェイアール東海建設・前田建設工業JV
東百合丘非常口 大林組・フジタ・大本組JV
小野路非常口ほか 鹿島・オリエンタル白石・鉄建建設JV
南アルプストンネル(長野工区) 鹿島・飛島建設・フジタJV
中央アルプストンネル(山口) 鹿島・日本国土開発・吉川建設JV
品川駅(北工区) 清水建設・名工建設・三井住友建設JV
北品川非常口および変電施設(地下部) 清水建設・鴻池組・竹中土木・名工建設JV
伊那山地トンネル(坂島工区) 清水建設・大日本土木JV
日吉トンネル(南垣外工区) 清水建設・大日本土木・青木あすなろ建設JV
南アルプストンネル(山梨工区) 大成建設・佐藤工業・銭高組JV
南アルプストンネル(静岡工区) 大成建設・佐藤工業JV
静岡県内導水路トンネル 大成建設・佐藤工業・大豊建設JV
第一中京圏トンネル(西尾工区) 大成建設・日本国土開発・ジェイアール東海建設JV

10年前には地下鉄工事の談合で手痛い罰

 今回の疑惑の舞台となっている名古屋では、10年ほど前にも大林組を仕切り役とする談合事件が起こっている。名古屋市営地下鉄6号線の延伸工事の入札で独占禁止法違反があったとして、公取委が2007年に大林組、鹿島、清水建設のほか、前田建設工業と奥村組の5社を刑事告発した。その後、談合を取り仕切った大林組の元顧問に対して3年、各社の営業担当者に対して1年6カ月の懲役刑が科された。各社は1億〜2億円の罰金も支払った。

 この談合を巡っては、刑事罰のほかにも公取委から14社に総額19億円の課徴金納付命令が出された。さらに、工事を受注した鹿島、清水建設、奥村組、前田建設工業、ハザマ(当時)をそれぞれ幹事とする5JVに対して名古屋市が22億円の損害賠償を求めるなど、各社が手痛い罰を受けた。

 しばらくは大手が主導する談合は鳴りを潜めていたものの、最近また様相が変わってきた。東京外かく環状道路(外環道)の地中拡幅部の工事で大手4社による談合疑惑が持ち上がり、昨年9月に入札手続きが中止されるなど、談合復活の兆しが見え始めている。