リニア南アルプストンネル、水資源維持に残る不安|日経コンストラクション

メモ
リニア中央新幹線の南アルプストンネル(延長約25km)で唯一の未着工区間の静岡工区について、JR東海が工事発注手続きを進める一方、地元では交差する大井川の流量確保に不安がくすぶっている。対策の強化を求めている静岡市は7月31日、大井川の流量低下に関して、JR東海の予測よりも厳しい独自の試算結果を公表した。
山梨、静岡、長野の3県にまたがる南アルプストンネルは、リニア新幹線の建設現場のなかでも屈指の難所だ。山梨と長野の両工区は着工済みだが、静岡工区(延長8.9km)は水資源として発電や農業、工業などに広く利用される大井川の流量低下のリスクが影響して、沿線自治体との調整がほかの工区と比べて長くかかっている。
JR東海は2015年11月、流量低下を補うために、静岡工区内の湧水を大井川に送る延長約11kmの導水路トンネルを整備する方針を打ち出した。同社の試算によると、導水路トンネルの出口を設ける椹島(さわらじま)地域付近の大井川の平均流量は、南アルプストンネルの完成に伴って18.6%減るが、導水路トンネルを併設すれば6.4%減に抑えられる。
導水路トンネルの効果予測に相違
これに対し、静岡市は17年2月、大井川の流量をより多く確保するため、静岡工区内の湧水を全て大井川に送るべきだとする意見書を静岡県に提出。県は4月、湧水を全て確保するのが難しい自然流下ではなく、ポンプを使って導水路トンネルに送ることを求める意見書をJR東海に送付した。
JR東海は6月、ポンプで送水して、大井川中下流域の水資源利用に影響が生じないようにすると県に回答。一方で、湧水の全量を送るかどうかには触れなかった。
静岡市は7月31日に公表した16年度「南アルプス環境調査結果報告書」で、2月に出した意見書の補足を意図して、南アルプストンネル完成後の大井川の流量を独自に予測した結果を明らかにした。
椹島付近における大井川の平均流量の減少率は、導水路トンネルが無い場合は13.7%でJR東海の予測に比べて軽微だが、トンネルを自然流下式で整備した場合については、JRより厳しい数値の7.5%とした。
流量減少対策で協定締結へ
JR東海は南アルプストンネル静岡工区の工事発注のため、6月に技術提案を含む見積書の受け付けを開始した。締め切りは10月だが着工時期は未定としている。
他方で、静岡県の要望に応じて、電力会社など民間の大井川下流利水者11団体と、流量減少対策に関する基本協定を締結する方向で調整中だ。トンネル内湧水をできるだけ多く確保するよう求める声は民間にもあるとみられ、JR東海の対応が注目される。

