「ダム屋の遺言」は水力発電を活性化できるか|日経コンストラクション

竹村公太郎・元国土交通省河川局長インタビュー
現在は天下り団体の 財団法人リバーフロント整備センター理事長

脱ダムに動く世界の動きを無視されているようですね。

現在計画されているダムは無用ということでしょう。

備忘録メモ

再生可能エネルギーの普及に向けて、水力発電に対する関心が高まっている。福島県内の再エネ事業者や元県議などが6月18日に設立した「福島水力発電促進会議」(共同代表:望木昌彦・尚志学園理事長、甚野源次郎・公明党福島県本部議長、佐藤勝三・ふくしま未来研究会代表理事)は、県内の既設ダムを生かした水力発電事業への支援を求めて、県に働きかけを始めた。

 東京電力福島第1原子力発電所の事故を踏まえて福島県が2012年3月に改定した「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン」では、30年度に太陽光発電の発電量を原油換算で09年度の51.4倍、風力発電を71.6倍に高める目標を掲げている。一方、水力発電についてはほぼ横ばいとした。

促進会議は、現在発電をしていない県内の既設ダムに発電設備を設置したり、ダムの運用を見直したりすれば、水力発電の設備容量を現在の約400万kWから約500万kWに積み増し、年間発電電力量を約70億kWhから約150億kWhに高められるとみている。

 県は09年度に421万kWだった再生可能エネルギーの設備容量を30年度に1073万kWまで高める目標を立てている。既設ダムの活用で目標の1割を賄える。

河川法の改正を求める請願書

 促進会議が描く事業スキームはこうだ。自治体と民間事業者が設立したSPC(特別目的会社)が主体となって、国の補助金などに頼らず、民間資金を活用して発電事業を実施する。最初の案件については促進会議の構成委員が資金を提供するが、将来はプロジェクトファイナンス(事業融資)で賄う。専門家で構成する促進会議はSPCに対して、技術面や資金面などで助言や支援を行う――。

 促進会議で事務局長を務める信夫山福島電力(福島市)の佐藤憲夫・事業推進グループ部長は、「県の協力を得て事業化を成功させ、『福島モデル』として全国に展開し、日本のエネルギー事情の改善につなげたい」と意気込む。

 日本水フォーラムの代表理事を務める竹村公太郎・元国土交通省河川局長が16年9月に出版した書籍「水力発電が日本を救う」(東洋経済新報社)を関係者が手に取ったのが、促進会議設立のきっかけだ。

 同書の中で竹村氏は、既設ダムを有効活用すれば国内の水力発電量を2〜3倍に増やせると指摘。そのためには、治水と利水、環境保全を目的にうたう河川法第1条に「水力エネルギーの最大活用」を追加して河川管理者の意識を転換したり、最新の気象予報技術や洪水予測システムを活用してダムの運用を見直したりする必要があると説く。

 竹村氏は促進会議の座長に就任。6月19日には、河川法改正を国に働きかけることや、県内の既設ダムを用いた水力発電事業への支援を求めて、福島県議会に請願書を提出した。

特定多目的ダム法の運用を変える

――著書「水力発電が日本を救う」では、水力発電の潜在力を訴えていますね。

竹村 あの本は、「ダム屋」としての遺言のつもりで書きました。日本のエネルギー自給率はわずか6%にすぎません。化石燃料に依存するのではなく、持続可能な国産エネルギーが必要です。私は建設省で川治ダム、大川ダム、宮ケ瀬ダムの3つのダムを建設し、国土交通省の河川局長も務めました。その経験から、多くの人に水力発電の可能性を知ってほしいと考えました。

 元河川局長の私が水力発電を推進していると聞けば、「竹村はまた、ダムを造るのか」と誤解する方がいるかもしれませんが、そうではありません。あくまで既設のダムを有効に使おうという趣旨です。数百戸の集落を水没させる社会的インパクトが大きいダム開発事業は、今の時代では不可能です。

――既設ダムの有効活用というと、具体的には?

竹村 大きく分けて4つのポイントがある。1つ目は、発電をしていない多目的ダムに設備を取り付けることです。国直轄の多目的ダムでも、管理用発電を除けば、半分くらいのダムに発電設備が付いていないのでは。都道府県のダムでは8割ぐらいでしょうか。発電設備を設置するには堤体に穴を開ける必要がありますが、日本の建設会社の技術力ならたやすいことです。

 2つ目は運用の変更。要するに、多目的ダムの水位を上げるのです。多目的ダムは「治水」と「利水」という矛盾した役割を持ち合わせた施設です。治水のためにはダムの容量を空けておかなければならない一方、利水のためには水をためなければならない。

 各ダムは100年に1回の洪水を想定して治水容量を最優先に設定し、残った分を利水容量とします。夏になると水位を下げて、台風を待ち構えるわけです。安全第一の方法として、そうした運用は奏功してきました。ですが、根拠である「特定多目的ダム法」を制定した1957年から、気象予測技術は大きく進化しています。

 当時と違って、私たちは台風がいつ、どこで発生し、どのような進路を取るかがリアルタイムで分かる。最新の気象予測技術や洪水予測システムを使い、台風が来ないうちは水位を上げて発電に使う。それだけで、大きな効果を見込めるでしょう。台風がやってくると分かれば、予備放流で水位を下げればいいのです。

――残り2つのポイントは?

竹村 3つ目は、ダムのかさ上げによる容量の増加です。技術的には難しくない。環境への影響については精査が必要ですが、新たにダムを造るのに比べると極めて小さくて済みます。ご存知のように、ダム開発に大きな費用がかかるのは、鉄道や道路を付け替えたり、移転する住民の方々のコミュニティーをつくり替える必要があるからです。既設ダムでは補償が済んでいるので、費用もさほどかかりません。

 4つ目は、本体ダムの下流に小さな逆調整池ダムを造ること。本体ダムで日中の電力需要のピーク時に発電し、一度下流のダムで水をため、再び発電をしながら少しずつ放水して水位変動を安定させます。宮ケ瀬ダムでは、同じことを実際にやっています。

 以上の4点を組み合わせていけば、既設ダムの潜在力を十分に発揮できるようになるでしょう。ただし、そのためには河川法の改正が必要です。

――改正が必要な理由と、具体的な内容を教えてください。

竹村 河川法の「目的」を定めた第1条では、治水と利水、環境保全をうたっている。私はここに「水力エネルギーの最大活用」を加え、河川管理者の意識を「許認可権者」から「事業者とともにエネルギーを作るプレーヤー」に変えるべきだと考えています。

 確かに現行の河川法の下でも、既設ダムを利用した水力発電事業は可能です。制度上は。実際に福岡県では、うきは市など県内の自治体が県営ダムの放流水を活用した水力発電事業を始めています。しかし、こうした事例は珍しいケースでしょう。

 河川管理者は強い権限を持っています。たとえ水力発電を志す事業者がいたとしても、管理者が「上から目線」で長い時間をかけて審査をするようでは、申請者がへとへとになって潰れてしまう。こうした問題を解決するには、河川管理者の意識を変え、自らエネルギーを作る「プレーヤー」になってもらわなければなりません。

 河川法の改正が必要だと考えるのは、過去に同じような経験があるからです。1997年に、河川法第一条に「環境保全」の概念が加えられた時のことです。

 それまで河川管理者は、環境活動をしている人たちのことを、いつか自分たちにかみ付いてくるのではないかと不安視していたように思います。つまり、河川行政と環境保全が対峙するような構造があったわけです。

 ところが、河川法が改正された途端に、河川管理者の意識が変わりました。環境に配慮して工事をするのではなく、環境そのものが目的になったわけです。全国津々浦々の職員が、市民と一緒に活動を始めたのです。当時、私は本省の課長でしたが、変化がはっきりと分かりました。

――福島水力発電促進会議では座長を務めています。

竹村 私の著書を読んで、福島の皆さんが動き出したのだから、書いたからには責任をもってやらないといけないと思い、お引き受けしました。

 地域の人たちが県のダムを使って発電し、地域の電力を賄う。それが大事なことだと思います。市町村が中心になり、それを民間事業者が支えていくような仕組みが望ましいのではないでしょうか。

 例えば、自治体と民間事業者がSPCを設立し、一体となってやっていくイメージです。自治体が中心になれば、圧倒的な社会的与信があるわけですから、金融機関もお金を貸しやすいでしょう。市町村だけでは予算も技術も足りないかもしれませんが、それを地域の民間企業が支える。福島水力発電促進会議は専門家集団としてプロジェクトを考え、SPCを支援していきたいと考えています。

<訂正> 初出時に3段落目で、年間発電電力量を「約80億kWhに高められる」としていたのは、「約150億kWhに高められる」の誤りでした。(2017年7月12日14時30分)