読んでいて、見ていて、辛いという気持ちと、ほのぼの感が混ざり合うような感じ。

大西さんだから作ることができた作品でもある。

川辺川ダム計画に翻弄されつづけた五木村。ダムは中止されたがまだ道路建設は続くという。

そんな五木村に生き続けた大イチョウとご夫婦の物語と言ってよいだろう。

人間という動物が作り出すダムという物体、それを取りまく利害や利権。

人間と自然の関係性を一部の人間が改変してしまう怖さを写真は写しだしているように思う。

大イチョウが数百年生き続け、人々は循環する時間の中で輪廻転生する。

大西さんの本で一番初めに拝見したのが「山里にダムがくる」(2000年)、その後、徳山ダムに沈んだ村の映画や写真集、さらには東北大震災の長期取材を通しての著作等々。

すべての作品が現場へ何年もかけて通い続けて作られている、そこに住む人々の中に自分を溶け込ませることによってのみ撮影できる笑顔や聞き取りできるテキストなんだと思う。

ここで土になる
大西 暢夫
アリス館
2015-10-17