朝日新聞デジタル:ダム巡る「けしからん」映画  - 北海道 - 地域


先日、鎌倉で見せていただいた映画。

素晴らしいウイット!
是非お読みください。

●フリーランス記者 平田剛士

 題名は「ダムネーション」、つまり「ダム国家」「ダム民族」といった意味であろう。アメリカ合衆国こそ、まさしくそう呼ぶにふさわしい。

 1930年代の大恐慌を立て直したルーズベルト大統領のニューディール政策の柱が、テネシー川流域開発(TVA)であったことは、わが国の教科書にも載っている。TVAはダムを30以上も建設した。ダムを建設し続ければ雇用は途切れず業者が潤い、国家は発展する。全土に7万5千基のダムを造った米国はわが国のお手本だ。

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 と思って試写会に出掛けたのだが……題名にだまされた。

 同じ米国人が作ったとは思えない偏向映画だ。高度な政治判断と血税をもって建設されたダムに対し、「サケが死滅する」「先住民が伝統文化を継承できない」といった難癖をつける科学者やヒッピーまがいの活動家たちを、まるで英雄扱いしているのだ。

 B・ナイト監督自身がカヌーをこぎ、ダムゲートの突破をはかろうとして警備員と口論に発展するシーンは、卑劣としか言いようがない。体のどこかにセットした小型カメラで一部始終を隠し撮りしている。

 警備員たちが水上の撮影隊を「テロリスト」と呼び、「この川は国のものだ」と叫んで追い払おうとしたのは正当な職務だ。なのに映画は、そんな警備員たちが傲慢(ごうまん)で滑稽に見えるよう誘導する。他の客たちがゲラゲラ笑い転げるので、思わず釣られてしまった。け、けしからん!

 ザイルでダムに取り付いてペンキでキリトリ線を描く自称アーティストも登場。ふざけるにもほどがある。公共物への落書きは犯罪だ。それを称賛する映画も共犯だ。

 しかし米国も情けない。反対派に抗しきれず、用済みダムを次々に撤去し始めているのだから。

 レンズは発破の瞬間をとらえている。轟音(ごうおん)とともに巨大な壁が崩れ落ち、泥水がほとばしる。濁流の川にやがて清水が流れ始め、徐々に魚が戻ってくる。

 こんな映像を見せたら、わが国のダム反対派を勢いづかせるだけだ。

 首都圏などでは一般公開されたらしいが、ここH海道ではされなかった。各映画館の英断と言えよう。道内には巨大ダム建設計画がいくつも残っている。

 だが油断できない。配給元は今月から市民上映会向けにDVDの貸し出しを始めている。ダム立地場所なら特別割引? 詳しくはホームページ(http://damnationfilm.net)を見よ、だって……?

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 以上、もしもこの映画をJ国のダム官僚がみたら、きっとこんな感想になるだろう、と想像して書いてみました。

 (フリーランス記者)