東京新聞:2014取材ノートから(5)国交省、リニア認可 自然・生活影響 懸念の声:神奈川(TOKYO Web)
東京新聞、神奈川版
国土交通省は十月十七日、JR東海が東京・品川−名古屋間で二〇二七年の開業を目指すリニア中央新幹線の工事実施計画を認可した。これを受け、相模原市緑区では、首都圏唯一の中間駅や車両基地の建設に向けた動きが始まった。JR東海はリニア事業の必要性を強調し、環境影響評価(アセスメント)で対処法を示したとするが、自然・生活破壊への不安や懸念を抱えたままの沿線住民がいる。
「振動や騒音は大丈夫か」「電磁波の人体への影響はどの程度なのか」。中間駅建設予定地のJR・京王橋本駅近くで、JR東海が十一月に開いた事業説明会に住民ら約四百七十人が出席し、次々と質問を投げかけた。担当者はアセスメントに基づき、規制基準値内であると説明したが、会場から「説明が分かりづらい」と声が上がると、拍手が起こる場面があった。
東京ドーム約十個分の広さの車両基地が建設される鳥屋地区では、アセスメントによると、絶滅のおそれのあるオオタカの営巣地が確認された。自然が破壊され、多くの世帯が移転を迫られる可能性があり、コミュニティー崩壊も懸念される。鳥屋地区の奈良信・谷戸自治会会長(62)は「事業説明会で疑問や懸念は解消されなかった」とし、JR東海が一部で始めている自治会単位の説明会で、納得のいく説明を求めている。
JR東海は本紙の取材に「(事業説明会で)丁寧に説明し、多くの方々にご理解を深めていただいたと考えている」とコメント。自治会単位の説明会の後、測量を実施し、地権者への補償説明などを進める予定だが、残された課題はまだある。県内の延長距離は約四十キロで、うち約97%がトンネル。大量に発生する残土の七割は利用先が未定だ。相模原市に隣接し、水源の85%を地下水に頼る座間市は、リニア建設工事に伴う水位の低下を懸念。これまで三度、JR東海に詳細なデータの提示や説明を求めたが、今月中旬になっても「いまだに文書による正式な回答は得られていない」(市担当課)。
一方、相模原市はリニア開業に合わせて橋本駅周辺整備を進める。九月に一部返還された米陸軍施設「相模総合補給廠(しょう)」の跡地利用とともに、首都圏南西部の広域交流拠点都市を目指す方針で、同駅周辺の企業や商店街からは、開業による経済効果を期待する声が聞かれる。
取材の過程で、リニアに対するさまざまな意見を耳にしてきたが、「公共の利益」という名の下に、生活や自然が脅かされることへの不安や怒りを覚えている人たちの声が心に残った。 (寺岡秀樹)