<リニア浮上へ>(3) 工事と環境保全:一面:中日新聞(CHUNICHI Web)


<リニア浮上へ>(3) 工事と環境保全

 山梨リニア実験線の延伸工事が本格化した二〇〇九年。山梨県笛吹市内を残土を積んだ大型ダンプカーが次々と走り抜けた。

 「ブロロロ」。午前八時半を過ぎると、ダンプの走行音が聞こえてくる。JR東海は「一分間に一台の間隔を置いて走らせる」と地元と約束していたが、数珠つなぎで来ることも。家の中にいても振動を感じた。

 「静かな暮らしを求めて帰ってきたのに…」。残土の運搬ルート沿いに住む男性(61)は、工事開始の半年前、埼玉県からUターンしてきた。三年近く悩まされたダンプの音。「工事前にJRと納得いくまで話し合うべきだった」と悔やむ。

 リニア中央新幹線の工事認可を受け、JR東海は今、沿線各地で工事概要などについての住民説明会を開いている。十一月六日には、長野県南木曽町の会場に町民約百人が詰めかけた。

 町民「環境保全協定の締結が地元の切なる願いだ」

 JR東海「協定の締結は考えていない」

 三時間半に及んだ説明会は最後まで平行線だった。

 計画では、町内の二カ所に、掘削した残土を搬出する作業トンネルが集中。残土を運ぶ工事車両が国道256号を、一日最大六百九十台往来するという。江戸時代の宿場町の風情を残す妻籠を抱える町は、観光が主要産業。工事車両が渋滞を引き起こし、観光にダメージを与えるのではないかとの懸念は地元に根強い。

 町は昨年から、環境保全協定の締結を要望してきたが、JR東海は「環境保全については環境影響評価書で示しており、これが世間との約束」と応じない。

 工事やリニア運行が環境に与える影響をJR側がまとめたのが評価書。町のリニア担当職員は「総体的な表現で南木曽町についてどこで触れているか分かりにくい。評価書で片付けるのは乱暴」と反論する。

 JR東海は「工事車両の通行ルールなど評価書に書かれていないものなら書面で交わす考えはある」とも説明しているが、地元は真意を測りかねている。

 そこにあるのはJR東海への不信感だ。町の要望は拒否され、JRの対応にも「一方的」と不満を募らせる。工事が認可されても、肝心の残土の運搬ルートが明らかにならないことも不安をかき立てる。

 「平穏な暮らしを保証してほしいだけ。地元の不安を解消せずに見切り発車されてはかなわない」と町長や住民の代表らでつくるリニア対策協議会のメンバー、北原泰雄(72)。地元にとって協定とは、JRとの信頼と合意のかたちだ。

 国土交通相は工事認可の際、住民の理解を得るよう求めた。JR東海は「何度も足を運び、説明を重ねて信頼していただくしかない」と答える。同町では一六年度半ばに工事が始まる計画だが、住民との溝は深い。