(社説)リニア新幹線 これが最良の選択か:朝日新聞デジタル
リニア中央新幹線の品川―名古屋間の環境影響評価(アセスメント)がほぼ終わった。国土交通相はJR東海の計画を大筋で容認した。JR東海はこの秋にも着工する構えだ。
ただ3年に及んだアセスで、計画への疑問はむしろ膨らんだといわざるをえない。工事で6千万立方メートルを超す残土や汚泥などが出る。沿線河川の水が減ったり、南アルプスの景観や動植物の生息に影響したりする恐れも明らかになった。
こうした環境問題も心配だが、時代の移り変わりを見ると、そもそもリニアは必要なのかとの疑問も抱かせる。
中央新幹線は、1973年に基本計画が決まった。ほどなく高度成長が終わり、同時に計画が示された11路線は凍結状態だ。中央新幹線だけが進んだのは、JR東海が東京―大阪間で9兆円超の建設費を自己負担すると表明したことが大きい。
最高時速500キロ超の超伝導リニアは、62年から研究が続く日本の鉄道技術者の夢だ。何としても実現させ、将来は輸出も、との思いがある。
ただこの40年余りで、社会状況は大きく変わった。最も留意すべきなのは、人口が急速な減少局面に移ったことだ。
JR東海は、東京、名古屋、大阪を1時間程度で結ぶことで、6千万人を超す巨大都市圏がうまれ、日本全体の経済成長を促す、と強調する。
だが、東京一極集中と地方の疲弊が問題になっているのに、3大都市圏の合体化が最適の処方箋(しょほうせん)なのか。リニア計画を認めた国の審議会でも、社会構造に及ぼす負の側面を十分に検討したとは思えない。
JR東海がもう一つ説くのは、東海道新幹線の代替機能だ。今年で開業50年を迎えて老朽化対策が急務なうえ、リニアがあれば地震の時も東西ルートを確保できるとの考えだ。
ただ、北陸新幹線の整備が進み、東京―敦賀(福井県)間は25年度に開業する予定だ。さらに1本、しかも建設費が割高で電力消費も大きいリニアが唯一の選択なのか。
JR東海が自己負担する9兆円余りは、企業努力の産物ではあるものの、公共交通であるJRに国民が払った運賃が原資となっている。地方公共交通が衰弱している現状で、何ともアンバランスな投資にも思える。
着工にゴーサインを出すのは国だ。安倍政権は前のめりだが、リニア抜きの案も含めた国土利用の未来計画を示して、国民の意思を確かめてはどうか。拙速に進める必要はない。