ウナギの危機 環境復元させ歯止めを−北海道新聞[社説]
北海道新聞の社説
あまりに正しい指摘。
誰のための事業なのかを事業から読み取ることをしないと、日本人がいかに愚かか世界の笑い者になる。
以下記事
ウナギの危機 環境復元させ歯止めを
絶滅を防ぐにはまず環境の復元から始めなければならない。こんな強い警告と受け止めるべきだ。
ニホンウナギが国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に指定された。
漁獲激減がかねて指摘されながら、政府は何ら有効策を打ってこなかった。その怠慢をあらためて認識する必要がある。
絶滅危惧種に指定されても、即座に捕獲や国際取引に規制が生じることはない。
だが、2年後のワシントン条約締結国会議で輸出入の制限対象となる可能性は十分にある。手をこまぬいているわけにはいかない。
政府は乱獲防止といった目先の対応にとどまらず、種の保全という立場から、生息環境の復元に積極策を講じる責務がある。
ニホンウナギの生態はなお、未解明な部分が多い。
産卵場所は3千キロも離れた太平洋のマリアナ海溝付近とされる。稚魚は日本列島や中国の沿岸から川を遡上(そじょう)し、親魚になった後は、再び産卵で海に戻るという。
海、海岸、河川。種の保存には、これらを一体化して生息環境ととらえる視点が欠かせない。
河川の直線化やダムの建設が生育環境を狭めてきたことを反省し、工法の見直しも迫られる。
コンクリート護岸の河川ほど生育数が減少しているとの調査結果がある。自然に近い工法の採用が求められているのはそのためだ。
熊本県の球磨川では、ダムを撤去するために水門を開いたところ、天然ウナギの漁獲が増えたという。参考例として役立てたい。
一方で、養殖事業とウナギの資源回復を混同してはならない。
完全養殖はなお、実用化に至っていない。養殖を軌道に乗せるには、まず野生の稚魚の捕獲が前提条件となる。大量消費のつけの大きさを再認識するときだ。
資源量の増減や分布状況をきちんと把握してこなかった政府の責任も重い。最近まで乱獲を放置してきた水産行政の甘さが危機的状況を招いたと言ってもいい。
データがなければ、許容される捕獲量や対策の重点地域を見極めることすらできない。基礎データの収集にはいまからでも資金を投じて乗り出すべきだ。
生息域が広いウナギの生態を考えれば、中国や台湾、韓国などとの国際協力も不可欠だ。
持続性の視点を欠いたまま欧州やアジアからウナギを集めて消費し、資源を枯渇させた行為を、繰り返してはならない。