社説:リニア新幹線 このまま突っ走るのか - 毎日新聞


誰のための公共交通なのか?
環境破壊確実、採算性疑問、健康被害問題等々。
科学技術は万能でないし、自然を管理制御出来ないことをいつになったら理解するのだろう?

社説:リニア新幹線 このまま突っ走るのか

毎日新聞 2014年05月12日 02時30分

 最高時速500キロの超電導リニア鉄道で東京−名古屋−大阪を結ぶ中央新幹線計画が、年度内の工事開始に向かって着々と前進しているようだ。事業を担うJR東海は先月末、2027年の開業を目指す東京・品川−名古屋の区間について、沿線などの環境に対する影響を評価した報告書を国土交通相に提出した。

 同相の意見を踏まえて必要な修正をした後、早ければ今夏にも工事実施計画への認可を国に申請する。認可されると、いよいよ着工である。

 しかし、環境評価書を提出したとはいえ、未解決の課題や不安は数多く残っている。このまま突き進んでよいのかと、思わずにはいられない。

 例えば、工事によって大量に発生する残土への懸念がある。東京−名古屋区間は南アルプスを貫通し、9割近くが地下かトンネルを通る。「土」より「岩」に近いものも含む残土が約5680万立方メートル(東京ドーム46杯分)発生すると言われる。

 ところがその置き場や処分法はほとんど決まっていない。JR東海は今後、地元と相談しながら置き場を決め、リニア事業での再利用や、公共事業などでの「有効利用を進めていく」というが、具体的なあてが示されているわけではない。

 残土は、土砂崩れを起こす危険があるほか、運搬の過程で周囲の動植物や景観に影響を与える恐れもある。本来なら、残土の処理計画を明確にし、それが環境上、問題のないことを具体的に確認したうえで評価書をまとめるべきだが、そうした作業は工事の認可後となる見通しだ。

 一度、走り出せば全体の計画を止めたり大幅に見直したりすることが極めて困難なのが、このような大規模事業である。「着工ありき」ではなく、環境、安全、経済合理性など、幅広く、長期的な観点から、精査を尽くすべきだ。認可決定前に、国会で徹底審議を行ってもらいたい。

 気になるのは、計画の精査どころか、政権や与党内に前のめりの動きが目立つことだ。安倍晋三首相は、自国で安全性、採算性への疑問が払拭(ふっしょく)されていないというのに、リニア新幹線を米国に売り込むのに熱心である。ワシントン−ボルティモア間の工事費用のため、国際協力銀行を通じた低利融資を提供すると、オバマ大統領に提案したそうだ。「日米同盟の象徴」というが、同盟にどう寄与するのか、わかりにくい。

 一方、自民党内では関西選出の議員らが、45年に予定されている大阪までの延伸を、国の資金を使って前倒しするよう政府に求めた。

 JR東海が総工費9兆円を見込む国家的巨大事業だ。長期の視点に立って、冷静に再点検しても時間の無駄にはならないはずだ。