朝日新聞デジタル:(社説)リニア新幹線 建設急がずエコ重視で


(社説)リニア新幹線 建設急がずエコ重視で

 JR東海が東京・品川―名古屋間で2027年の開業をめざすリニア中央新幹線について、時期の前倒しや一部開業を望む声が相次いでいる。20年の東京五輪開催が決まったためだ。

 経団連の米倉弘昌会長は、1964年の東京五輪に合わせて開業した東海道新幹線を引き合いに、20年に「リニアをせめて名古屋まで」と発言した。菅義偉官房長官も「五輪で海外から来る人たちに部分的に乗ってもらえれば」と語った。

 こうした意見に対し、JR東海の山田佳臣(よしおみ)社長は「工事は急げるものではない」と否定的な姿勢を示した。当然である。

 東海道新幹線は着工から5年で開業したが、時間がかかる高架橋をなるべく避けたため、雨による路盤崩壊に長く苦しめられた。山陽新幹線でも90年代以降、トンネルや高架橋のコンクリート崩落事故が続く。8年の突貫工事で粗悪な素材が使われた影響が指摘されている。

 リニアでは、こうした拙速の愚を繰り返してはならない。

 JRがおととい公表した環境アセス準備書を見ても、工事の難しさがよくわかる。

 品川と名古屋では駅の営業を続けたまま、地下30〜40メートルまで掘ってリニアの駅を設ける。品川から相模原市までの42キロもトンネルだ。人口密集地の下で、5キロごとの非常口や工事拠点の用地確保はこれからになる。

 3千メートル級の山々が連なる南アルプスは、延長25キロのトンネルで貫くという。JR側は「日本の技術力は進歩している」というが、過信は禁物だ。

 過去の長大トンネル工事では、予想もしなかったトラブルが起き、作業員が亡くなったり、工期が大幅に延びたりした例が少なくない。JRは開業目標の27年にこだわることなく、安全最優先でことを進める姿勢を貫いてほしい。

 沿線住民の合意形成に力を注ぐことも欠かせない。磁界、騒音、振動、建設残土……。すでに懸念の声が多く上がっている。理解を得られないままでの「見切り発車」では、新時代の公共交通として歓迎されないだろう。

 福島第一原発事故の後、全国の原発が止まり、リニアの電力消費量の多さにも厳しい目が向けられている。JRの経営陣は原発再稼働に期待感を示すが、時代に逆行していないか。

 JRは新幹線で省エネ性を追求してきた。リニアでは、太陽光など再生可能エネルギーでの自家発電を大胆に導入し、原発、化石燃料に依存しないエコ鉄道を目指してもらいたい。