図書館本

3.11を原因とする震災死を石井氏(1977-)が取材と聞き取りで描き出す。
民生委員、医師会会長、歯科医師会会長、市役所職員、市長、消防団員、僧侶、自衛隊員、葬儀社社員などの地元を良く知る人々の生の声が綴られている。
辛いのは、釜石という場所は生死が二分した(津波被災地が)場所であるからこそ、身近な人々の死がそこにある。

鵜住居や大槌の話も出てきます。
遺体安置所の中で生かされた者と死せる者が向き合い、嗚咽、涙、怒り、絶望、思いやり、慈悲、ありとあらゆる不条理の中で時間が過ぎていく光景が目に浮かんできます。

津波にですべてが流された場所はボランティアで体験はしましたが、震災直後の多くの死の場面はおそらく創造を絶する光景が広がり、なんとか早くご家族などに合わせて上げたいという多くの方の努力がそこにあったことが分かります。

あとがきで筆者が書かれている光景を私自身も現地で聞きました。津波で流されたご遺体がどの様な状況であったか、重機などが無ければ、どうしようも手が届かない現場があったことを。

日本のすべての方が、現場の匂いや風を共有することは出来ないでしょうが、少なくとも津波で被災した場所を訪れて手を合わせ、頭を下げることを御願いしたい。
生きる者として何が出来るのか、真剣に考えていかねばいけないと本書は静かに語りかけているように思う。

未だに多くの行方不明の方がいて、心の底から泣くことも出来ないご遺族がいることも。

一つだけ気になったのは、日本人の死生観として、昔は土葬で土に還るという考えもあったかと思うが、近代は火葬が多く、被災地で仮の土葬が受け入れられなかったということである。

遺体―震災、津波の果てに
遺体―震災、津波の果てに