回復の森 上原巌監修・日本森林保健学会編 川辺書林 2012

一言で要約すれば、利他的な人達の森林療法の現在、過去、未来。

巷に溢れる癒しだのセラピーだののテキスト。そこに利己的(過大なビジネス)の匂いを感じる人が多いと思う。私もその一人であるが。
以前、上原さんが、「事例に学ぶ森林療法のすすめ方 上原巌 編著 全国林業改良普及協会 2005」をまとめられていて、それを読んでいたので、その後の展開が気になっていた。

本書は全国での取組みをまとめたものである。読んでいて清々しい気分になるのは、著者の皆さんが利他的な振る舞いを当たり前にしているということだろか。勝手に想像するに、著者の皆さんも森に抱擁されて優しさ一杯の人に成られたのだろう。
そして、真摯にデータを示し、地道に活動されている姿が見えてくる。

表紙下の写真、子供達が木のトンネルの中を歩く姿がなんとも言えず良いです。(森のようちえん)

備忘録的メモ
単なる森林散策、レクレーションイベントを新たに療法という言葉を使っているような企画、事業が見られる。地域住民置き去りの地域振興
森林も人間も共に健康を高めていこうというのが本来の取り組み
長期的実践と臨床データ蓄積の必要性(漢方薬のような効果なので速効性を示すのは難しいのだろう)
事例報告;
NPO法人北相木りんねの森、反リゾートとしての森林保健、森林セラピー基地(林野庁関連団体の商標登録)はセラピーと言いながらリゾート産業的要素が強い。託林という活動。
霧島桜ケ丘病院(高齢者、認知症)、森林内での焚き火、森林内での作業
その他の施設でも生活行動の改善がみられたりする例が多数ある。

森林浴というとイメージしやすくても、「森林療法」となると意識のハードルが高かったり、あるいはインチキ商法の同類イメージをもたれやすい(by 上原)
地域伝承の森林文化が各地で断絶しつつある。
森林保健活動の運営主体 1)医療施設、2)福祉施設、3)学校、4)職場、5)地方自治体、6)個人

ストレスの指標としての唾液アミラーゼ値は短期的調査ではあまり差が出ないようだ。
森林における保健休養の効果というものはもともとその個人差が大きく、各地域の森林環境による差異も幅広く、さらに季節差、日較差もあって、短絡的に「癒しの効果がある」などとお墨付きをつけたり、言いきったりすることはそもそも不可能なのではないだろうか。(by 上原、あとがき)

読み終わった時に思ったのだが、日本には(おそらく海外にも)湯治という温泉地に逗留して療養するという行為がある。多くの湯治場は都市部とは離れた場所に存在する。古い本を読んでいて、難病だと思われる老若男女が完治してしまったような例があることを知った。もちろん温泉の効能もあるのであろうが、森が持つ効果(フィトンチッドなど?)や豪華でないにしても栄養がある食事(山の幸、海の幸)などが複合的に難病患者の免疫能力を高めたのかもしれない。

今後さらなる森林療法の総合的評価が利他的な多くのサポーターによって行われることを願って止まない。

日本森林保健学会はどなたでも参加できるそうです。

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