限界集落株式会社 黒野伸一 小学館 2011

図書館本

危険思想だ!発禁に!(笑)
380ページに及ぶ感動の農村再生復興ドラマ。
黒野伸一さん(1959-)が示している参考文献のいくつかは読んだ事がある資料や小説だったのと同年代という事もあり、非常に楽しく感動しながら読みました。

限界集落とか中山間地とか僻地と呼ばれる地域は都市との比較や区別の文脈で語られる。そしてそこに貨幣という経済活動が係わる。ひたすら効果と効率を求めた近代の経済成長が終え、倦怠感となんとも言えない怯えや諦めが特に若い世代に広がってはいないだろうか。爺婆だけの限界集落、そこに生きる価値と経済活動をも取り込んで生きる人びとがキラキラと輝く。

こんな主人公の言葉の中に黒野さんの主張があるようにも思う。
「苦労しているのは、農家だけか。消費者だって、この大不況の下、リストラの恐怖に怯えながら生きているんだ。何万人もの派遣労働者がポイ捨てされて、路頭に迷うご時世だぞ。曲がりなりにも、補助金貰って、家があって食いものに困らない農家は、この国の底辺では決してないはずだ。そんな事ばかり言っていると、大反発を食らうぞ。消費者のリスクなんてそっちのけで、農薬だの遺伝子組み換えだのを使って金儲けしようとしているやつらが、偉そうなことを言うなって、非難されるのが落ちだぞ」

そして役所の職員に向かって
「言ったでしょう。止村を復興させるって。官民一体というのは聞こえがいいが、あなたは今まで、この村の過疎化に歯止めをかける具体策を、一度でも練った事があるんですか?」
職員「ぼくらはね、中略 集落は何もここだけじゃない。それをうまく調和させるか、考えるのが役場の役割なんだ」
主人公「もっともらしいことを言ってるようだが、要は管理し易いよう鋳型を作って、はまり切れない集落は、見捨てるというスタンスでしょう。あんた、この間言ってたじゃないか。あんたがたが真剣に農村の将来を考えているとは、到底思えない。そんなことじゃ、ここだけじゃなく、いずれ幕悦町全体が滅びるだろうよ」

もう一人の主人公の美穂に対して
「おれたち、よく遣り合ったよな。お前は現場至上主義者で、おれは新自由主義を信奉する典型的アメリカ型経営者だ。お前は生産を重視するが、おれは収益を第一と考える。金が入ってこなけりゃ、いくら理想を揚げてもしょうがない。この村にくるまでずっとこの精神でやってきたが、ある時ふと気付いたたんだよ。おれは経営者の振りをしてきたが、本当は経営者じゃなんかじゃないかもしれないってことに」


通勤電車やバスの中で読まない事をお勧めする。泣く!

脳化社会は農家社会ではない。身体性のないつまらない社会が脳化社会なのである。

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