福島の原発事故をめぐって 山本義隆 みすず書房 2011年8月
図書館本


山本氏(1941-)のプロフィールにはいくつか抜けているように思うが、ご自身のチョイスなのだろう。東大理学部物理卒、大学院中退。駿台講師。

西洋思想・哲学・歴史から考えた原子力(核力)という存在、そしてフクシマという現実。
中沢新一の言う「原発は一神教」的な文脈はおそらく、日本にかなり強硬に西洋思想・哲学を導入し、科学・技術が進歩発展のための唯一の方法論であると見誤った日本人の結果なのかもしれないと本書を読んで思った。日本人は原発を神と捉えられなかったのだろう。その辺の事は、大津波と原発 内田樹x中沢新一x平川克美 朝日新聞出版 2011をご参照ください。

備忘録メモ
1958年原子力発電に向けてアクセルを踏んだ岸信介総理大臣(東条内閣時閣僚、A級戦犯)
1959年防衛用小型核兵器は合憲と主張。
核燃料サイクル「力ずくでも進めていくべき課題」2001年資源エネルギー庁長官
核兵器製造の機微技術(再処理、ウラン濃縮)平和利用という建前
原子力発電の推進、核燃料サイクルの開発が、「産業政策の枠を超え」る「外交、安全保障政策」の問題として位置づけられているのであれば、経済的収益性はもとより技術的安全性さえもが、二の次、三の次の問題となってしまうであろう。
放射性廃棄物に関して1978年アメリカ「過去30年間何億ドルという巨額の研究費が使われたにもかかわらず、恒久的で安全な廃棄物処理と保管の方法はまだ発見されていない」
榎本聰明(東電副社長、東大原子力工学科)2009年高レベル放射性廃棄物の地層処分場に関して、「処分場閉鎖後、数万年以上というこれまでに経験のない超長期の安全性の確保が求められる、中略 この事業を円滑に実施するためには、事業の意義やそのしくみにについて、各地方自治体や国民に広く理解、協力を得る必要があり、理解活動がよりいっそう重要となります」(山本氏の指摘:正気で書いている? 札束の力で理解さえる活動)
人形峠のウラン鉱の土砂はアメリカのユタ州の先住民居留地に搬出と報道。
元技術者菊池洋一、原発は「配管のおばけ」
平井憲夫 高速増殖炉もんじゅについて図面を引く基準が「日立は0.5ミリ切り捨て、東芝と三菱は0.5ミリ切り上げ、日本原研は0.5ミリ切り下げ」
マークI型軽水炉の危険性・欠陥は1976年にすでに指摘(各種報道、NHKでの検証番組)

科学技術幻想とその破綻
科学技術と自然対する畏怖の消失の歴史
16世紀文化革命(自然魔術師や技術者や職人は、自身が開発して蓄積した技術ノウハウをおりから出現した印刷出版によって公開していった)
17世紀科学革命へ
科学技術による自然の征服思想 (自然にたいする支配権、自然の主人公で所有者(デカルト))
経験主義的な技術がまだ先行した時代(理論が後追い)
19世紀中期、先行する技術発展に熱力学的理論が追いついた。
自然を利用する、地球は主人の監視のもとでどんな過酷な労働もしてくれるようになる。

市場原理にゆだねたならばその収益性からもリスクの大きさからも忌避されるであろう原子力発電に対する異常なまでの国家の介入と電力会社にたいする手厚すぎる保護は、弱者保護の対極にあり、きわめて由々しい結果をもたらしている。実際、それでなくても強力な中央館長と巨大な地域独占企業の二人三脚による、その危険性からも政治的観点かももともと問題が多く国民合意も形成されていない原子力開発への突進は、ほとんど暴走状態をもたらたしている。税金をもちいた多額の交付金によって地方議会を切り崩し、地方自治体を財政的に原発に反対できない状態に追いやり、優遇されている電力会社は、他の企業 では考えられないような潤沢な宣伝費用を投入することで大マスコミを抱き込み、頻繁に生じている小規模な事故や不具合の発覚を隠蔽して安全宣言を繰りかえ し、寄付講座という形でのボス教授の支配の続く大学研究室をまるごと買収し、こうして、地元やマスコミや学界から批判者を排除し翼賛体制を作りあげていったやり方は、原発ファシズムともいうべき様相を呈している。そして、それに反する首長に冤罪すら仕組む(前福島知事)。

アメリカやソ連と同様に待機中に放射性物質を大量に放出した国の仲間入りをしてしまった。こうなった以上は、世界中がフクシマの教訓を共有するべく、事故の経過と責任を包み隠さず明らかにし、そのうえで、率先して脱原発社会、脱原爆社会を宣言し、そのモデルを世界に示すべきであろう。
本書には関係ないが、山本氏はもちろん元東大全共闘の議長である。未来を約束された優秀な物理学者でもあったと聞く。

はじめに
1 日本における原発開発の深層底流
1・1 原子力平和利用の虚妄
1・2 学者サイドの反応
1・3 その後のこと

2 技術と労働の面から見て
2・1 原子力発電の未熟について
2・2 原子力発電の隘路
2・3 原発稼働の実態
2・4 原発の事故について
2・5 基本的な問題

3 科学技術幻想とその破綻
3・1 一六世紀文化革命
3・2 科学技術の出現
3・3 科学技術幻想の肥大化とその行く末
3・4 国家主導科学の誕生
3・5 原発ファシズム


あとがき
福島の原発事故をめぐって―― いくつか学び考えたこと
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