文明の接近 エマニュエル・トッド他 藤原書店 2008
図書館本(これは買わないとかな)

某大国は常に対立軸を設定しようとしているしか思えないのである。
9.11以降は特にそうではないだろうか?
そんな対立が不要である事を本書は綴っている。

識字率、幼児死亡率、人口動態、家族形態、結婚形態、出生調整等を指標に世界の動きを解析する。
個々の国、宗教や宗派の違いを超えて存在するある種普遍的な世界の流れが明らかな様に思う。

分類し、分離し、差別化しようとする流れに対して、毅然と我々は対抗する事が望まれているのだろう。

備忘録的メモ
自分達の通った道をこれから辿ろうとしている国々を、驚きの念を持って、さらには上の者が下の者を見下す態度で、眺めるわけである。このような展望の誤りは、歴史的自覚の水準がきわめて低いということがヨーロッパやアメリカ合衆国の特徴であるという秘密を暴露してみせるものだ。
近代化の衝撃は女性識字化と性行動の変貌によって男性優位の原則(権威関係)の崩壊により激しさを増す。
イスラーム教は人口動態に影響を与えない(結論)
今日、経済のグローバル化によって不安に陥った世界においては、分類し、分離し、そしてもちろん断罪しようとする誘惑は強い。それに、人々の精神の中に文明の衝突というイメージがどっかと腰を据えると、得をする大国もあれば、研究者もいる。この文明の衝突なるものの下には、経済的衝突の潜在的な暴力性が隠れているのである。人口学は、このような道具化された偏執病から人々を解き放ち、もっと先まで進むことを許してくれる。世界各地の住民は、文明と宗教を異にするけれども、収斂の軌道に乗っている。出生率指数の収斂は、われわれが将来へと、それも近い未来へと想いを馳せることを許してくれるのである。その近い将来においては、文化的伝統の多様性は、もはや衝突を生み出すものと知覚されぬようになり、単に人間の歴史の豊かさを証言するものとなるだろう。

訳者解説
「移行期危機」の概念;識字化進むということは、文盲の親の世代との断絶が起こるということ、すなわち不変と見えた伝統的との絶縁が実行されるということであり、社会は流血と殺戮の局面に入ることになる。この期間のことを、ドットは伝統的社会からの近代社会への「移行期」と規定し、そこに展開するイデオロギー的発熱と流血の現象を「移行期危機」と称するのである。イングランドのピューリターン革命、フランス大革命、ナチズムの勃興、日本軍国主義等々が具体的現れである。

目次
日本の読者へ
序 章 文明の衝突か、 普遍的世界史か
第1章 歴史の動きの中におけるイスラーム諸国
識字化と出生率の低下
イスラームにおける 「世界の脱魔術化」 か
第2章 移行期危機
識字化、 出生調節、 革命
イスラーム諸国の移行期危機
イスラーム主義と未来予測
イデオロギー的内容の問題
第3章 アラブ家族と移行期危機
父系と夫方居住
シーア派の相続法
内婚制
内婚制の心理的・イデオロギー的帰結
近代化の衝撃
第4章 非アラブ圏のイスラーム女性 ――東アジアとサハラ以南のアフリカ
マレーシア・インドネシアの妻方居住
サハラ以南アフリカの大衆的一夫多妻制
これまでとは異なる移行期危機となるか?
予第5章 イスラーム世界の核心、 アラブ圏
期せざる、 遅れて始まった移行期 ――識字化と石油収入
マグレブでの移行期の加速化とフランス
シリアの遅れと分断 ――スンニ派とアラウイ派
アラビア半島の異種混合性
レバノンはヨーロッパの国か?
パレスチナ人 ――占領と戦争と出生率
第6章 パレスチナ人 ――占領と戦争と出生率
トルコとイラン
国家の不確かな役割
人口上の移行期と国民国家
宗教、 人口動態、 民主主義パキスタンの人口爆発
人口動態の正常さと政治的脅威
アフガニスタンにも触れておこう
バングラデシュ ――人口過密と出生率の低下
第7章 共産主義以後
識字化の加速
中絶 ――イスラーム的ならざる出生調節
そして幼児死亡率
バルカンにおけるムスリムの多様化
第8章 妻方居住のアジア
正常な移行、 停止す
マレーシア ――イスラーム教よりはナショナリズム
第9章 サハラ以南のアフリカ
出生率の地域格差 ――民族と宗教
ムスリム女子の死亡率の低さ
結 論
〈附〉インタビュー 「平和にとって、アメリカ合衆国はイランより危険である。」

原 注
図表一覧
訳者解説

文明の接近―「イスラームvs西洋」の虚構
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