暗闇の思想を  松下竜一 教養文庫 1985
初出 朝日新聞社 1974年

1972年から74年にかけての九州電力の豊前火力発電所建設反対運動の記録。
五分の虫一寸の魂 松下竜一 1986 教養文庫ではわざと悲壮感が無い様に同じ題材を扱っているのだろう(主に環境権裁判の進行過程)。本書は松下氏の独白と苦悩を赤裸々に書き綴っているように思う。労働者側と経営側といった対立軸ではなく、単に美しい故郷を残しておこうという想いが松下氏とその仲間達の想いである。
電力という物質がもたらす光と影、電力を生み出すためにそこに公害という人間のみならず自然を破壊するであろう科学技術の残滓。
今(2010年元旦)当時を振り返れば、70年代のいわゆる高度成長期、そして大気汚染、水質汚染の公害だらけの世の中。多くの人々が健康を害していた時代でもある。そんな時代に少なからず全国各地に市場経済優先の政策を危惧し、未来の日本の自然や子孫の健康を利他的に考えていた人たちがいたことを本書は示している。
科学技術が万能だと信じ、影の部分(廃棄物や公害、残留薬物等々)を常に先送りにしているのは現在も同じではなかろうか。経済成長率が常にプラスであることの負の遺産を未来に先送りして良い訳がないのだという松下氏の思想が痛いほどわかる。
電気を切って、不便を楽しむ姿勢も実は大切な行為なのだろう。そう暗闇で語り合うのもよいし、早く床について早起きするのもよいのである。
文庫版では地裁および高裁での敗訴をあとがきに述べられている。そして最高裁へ上告中であると。火力発電所はすでに稼働中であることも。


暗闇の思想を―火電阻止運動の論理 (現代教養文庫 (1127))
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松下竜一 その仕事〈12〉暗闇の思想を
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