もりやはやし 四手井綱英 ちくま学芸文庫 2009

初出 1974年 中央公論社

35年前の書である。日本の森林が四手井先生の問題意識をもとに官民共同で対策を取っていれば本書が文庫化されることもなかっただろう。
木材の経済的な生産のみに専念する現代の日本林業は確かに行き過ぎである、と指摘する。
世界第二位の面積当たりの森林率(68%、一位はフィンランド)であるが、人口一人当たりになると世界最低レベルの0.2haでありヨーロッパ各国とほぼ同じ。
いろんな森に係わる話が湧き出している。
たとえば献木の習慣、修験者が泊り場の目印のために献木したスギの話し。
木地師の話し(芦生演習林に昭和の初期に杓子や曲物を作っていた)。
ブナ林の副産物採取の経済的効果。
山火事の起こるのは二次林といわれるヒトの手が入った山である。逆に原始林で山火事を自然消火したり延焼を止める事がある。
宮の森の意味(神をそっとしておいて「たたり」が及ばないようにする)
おそらく四手井先生は全てを科学的に片付けてしまう現況を危惧しているのだろう。
以下の言葉が全てを語っていると思う。そして京大の講座を造林学から森林生態学に改めた正しさがわかる。
「人間という知恵の発達した動物も、いくら文明が発達しても本質的には動物であることに変わりがない。動物はつねに自然に生き、自然に対応してきたのであるから、そういった科学的なしかも不十分な自然と人間の関係の解釈だけでは自然保護の本当の必要性を明らかにすることはできない」
解説(渡辺弘之(京大名誉教授)2009年3月)で四手井綱英さんは現在でもお元気でエッセイなどを執筆していると書かれている。「森林はモリやハヤシではない(2006)」の後書きを奥様が描かれていてかなり健康がすぐれないような記述があったのでの一安心である。


もりやはやし―日本森林誌 (ちくま学芸文庫)
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もりやはやし―日本森林誌 (1974年) (自然選書)
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