「東京裁判」を読む 半藤一利、保坂正康、井上亮 日本経済新聞出版社 2009年8月
半藤氏(1930− 作家)、保坂氏(1939− ノンフィクション作家)、井上氏(1961− 日経編集委員)による国立公文書館で公開された東京裁判資料に関する分析と鼎談、400ページを超える。帯に感情論も政治的解釈も超えて、史実で史観のゆがみを正す時、とあるのだが、井上氏以外のお二人は感情をかなり出しての鼎談となっている。
莫大の量の裁判資料を読み解く訳だが、この感想を書いている自分は1959年生まれであり井上氏の立ち位置に近い、すなわち全く戦争を現実としては見ていない世代であり、教科書の中でも東京裁判の記載がどの程度あったのか定かでないのである。そして次第に身の回りから戦争を知っている人が居なくなっている。本書でも指摘しているが、東京裁判での罪のカテゴリーのA級、B級、C級という分け方を多くの人が未だに罪の重さの順列だと理解している(そういう自分もそれに近い)。A級(平和に対する罪)、B級(通例の戦争犯罪)、C級(人道に対する罪)なのである。だからA種とかA類とかいう翻訳の方が良かったんですね。
多くの裁判運営上の問題が指摘されるが、勝った側が主導する裁判であるからそれもしょうがないように見える、逆に万が一日本が勝った場合にここまで裁判の形に出来たかと思ってしまう。
天皇が東京裁判で戦争責任を問われなかった事に関しては触れられていない、国体護持という日本側の主張をマッカーサーが受け入れた様には読み取れるが、資料には出てきていない。
また東京裁判は真珠湾の奇襲(騙し討ちではないそうだ)から始まるのでなく、1928年の張作霖の殺害から始まる事を知る。そして東京裁判は第2次、第3次と行うことも想定されていたが、あまりの長期化等で戦勝国側が諦めたようである。
インド人判事パールの被告全員は無罪という発言は有名だが、裁判官11人のうち7人の多数派により判決は起草された。
ヒトラーの「わが闘争」の原文には、日本人は劣等民族だが、我々の手足としては使えるという表現があるそうだ。
いずれにしても国際法で認められている戦争という行為が招く悲劇、本来であれば軍隊と軍隊との戦いであろう、そこに戦争当事国の市民までが血を流す(戦時に市民の兵も関係ないという考えもあるが)現実は果たして人間の本能のなせる技なのかと考えさせられる。外交という手段は果たしてどの程度抑止力を戦争に対してもちえるのだろうか。
序 章 歴史の書庫としての東京裁判
鼎談 国立公文書を読む前に
第1章 基本文書を読む
特別宣言
裁判所条例
起訴状
鼎談 基本文書を読み終えて
第2章 検察側立証を読む
冒頭陳述
日本の戦争準備
中国大陸での謀略
南京虐殺事件の証言
三国同盟と対ソ戦準備
日米開戦への道
裁かれた「真珠湾」
捕虜・市民の虐待
鼎談 検察側立証を読み終えて
第3章 弁護側立証を読む
冒頭陳述
侵略の定義とは
満州での謀略否定
虐殺事件で反論
「ソ連こそ侵略国」
追い込まれた日本
「真珠湾はだまし討ちではない」
「捕虜虐待は偶発」
鼎談 弁護側立証を読み終えて
第4章 個人弁護と最終論告・弁論を読む
広田弘毅の和平追求と無策
木戸幸一の軍批判
「平和主義者」という弁護
嶋田と東郷の対立
東條英機の弁明
検察側反証
白鳥敏夫の憲法論
最終論告・弁論
鼎談 個人弁護と最終論告・弁論を読み終えて
第5章 判決を読む
侵略の謀議認定
デス・バイ・ハンギング
割れた判事団
鼎談 判決を読み終えて
第6章 裁判文書余録
東條終戦手記
嶋田繁太郎巣鴨日記
鼎談 新発見の文書を読み終えて
あとがき
参考文献

「東京裁判」を読む
書評/歴史・記録(NF)

半藤氏(1930− 作家)、保坂氏(1939− ノンフィクション作家)、井上氏(1961− 日経編集委員)による国立公文書館で公開された東京裁判資料に関する分析と鼎談、400ページを超える。帯に感情論も政治的解釈も超えて、史実で史観のゆがみを正す時、とあるのだが、井上氏以外のお二人は感情をかなり出しての鼎談となっている。
莫大の量の裁判資料を読み解く訳だが、この感想を書いている自分は1959年生まれであり井上氏の立ち位置に近い、すなわち全く戦争を現実としては見ていない世代であり、教科書の中でも東京裁判の記載がどの程度あったのか定かでないのである。そして次第に身の回りから戦争を知っている人が居なくなっている。本書でも指摘しているが、東京裁判での罪のカテゴリーのA級、B級、C級という分け方を多くの人が未だに罪の重さの順列だと理解している(そういう自分もそれに近い)。A級(平和に対する罪)、B級(通例の戦争犯罪)、C級(人道に対する罪)なのである。だからA種とかA類とかいう翻訳の方が良かったんですね。
多くの裁判運営上の問題が指摘されるが、勝った側が主導する裁判であるからそれもしょうがないように見える、逆に万が一日本が勝った場合にここまで裁判の形に出来たかと思ってしまう。
天皇が東京裁判で戦争責任を問われなかった事に関しては触れられていない、国体護持という日本側の主張をマッカーサーが受け入れた様には読み取れるが、資料には出てきていない。
また東京裁判は真珠湾の奇襲(騙し討ちではないそうだ)から始まるのでなく、1928年の張作霖の殺害から始まる事を知る。そして東京裁判は第2次、第3次と行うことも想定されていたが、あまりの長期化等で戦勝国側が諦めたようである。
インド人判事パールの被告全員は無罪という発言は有名だが、裁判官11人のうち7人の多数派により判決は起草された。
ヒトラーの「わが闘争」の原文には、日本人は劣等民族だが、我々の手足としては使えるという表現があるそうだ。
いずれにしても国際法で認められている戦争という行為が招く悲劇、本来であれば軍隊と軍隊との戦いであろう、そこに戦争当事国の市民までが血を流す(戦時に市民の兵も関係ないという考えもあるが)現実は果たして人間の本能のなせる技なのかと考えさせられる。外交という手段は果たしてどの程度抑止力を戦争に対してもちえるのだろうか。
序 章 歴史の書庫としての東京裁判
鼎談 国立公文書を読む前に
第1章 基本文書を読む
特別宣言
裁判所条例
起訴状
鼎談 基本文書を読み終えて
第2章 検察側立証を読む
冒頭陳述
日本の戦争準備
中国大陸での謀略
南京虐殺事件の証言
三国同盟と対ソ戦準備
日米開戦への道
裁かれた「真珠湾」
捕虜・市民の虐待
鼎談 検察側立証を読み終えて
第3章 弁護側立証を読む
冒頭陳述
侵略の定義とは
満州での謀略否定
虐殺事件で反論
「ソ連こそ侵略国」
追い込まれた日本
「真珠湾はだまし討ちではない」
「捕虜虐待は偶発」
鼎談 弁護側立証を読み終えて
第4章 個人弁護と最終論告・弁論を読む
広田弘毅の和平追求と無策
木戸幸一の軍批判
「平和主義者」という弁護
嶋田と東郷の対立
東條英機の弁明
検察側反証
白鳥敏夫の憲法論
最終論告・弁論
鼎談 個人弁護と最終論告・弁論を読み終えて
第5章 判決を読む
侵略の謀議認定
デス・バイ・ハンギング
割れた判事団
鼎談 判決を読み終えて
第6章 裁判文書余録
東條終戦手記
嶋田繁太郎巣鴨日記
鼎談 新発見の文書を読み終えて
あとがき
参考文献

「東京裁判」を読む
- 日本経済新聞出版社
- 2310円
書評/歴史・記録(NF)
