こころの処方箋 河合隼雄 新潮社 1992

河合隼雄(1928−2007)「新刊ニュース」1988−1991に連載した文章と書き下ろし。
1992年1月発行で6月には13刷となっている。かなり売れたのでしょう。
著者があとかぎでも述べられているのだが、本書は「常識」(読者が既に腹の底では知っている)を書いていると。しかしその常識を売りものにしている理由として、現在常識があまりに知られてない時代なのではないかと。そして知識は沢山持っていながら常識の無い人が増えている。またマスコミなどが「非常識」を売物にするので、常識がない方が価値があると錯覚するのかもしれないが、常識を知らぬ「非常識」は、あまり好きになれないと吐露している。
まさにおっしゃる通りである。臨床心理学者としてだけではない深い知識の集積に基づく文章はまさに「なるほど」とうなずかされる。それは、やはり他者との関係性という文脈の中でしか生きる事の出来ない「自分」を俯瞰的にそして時に光の当たる面と、影の面を映しだしてくれているように思う。
いくつか、備忘録的にメモしておきたい。
ものごとは努力によって解決しない。(逆説的たがなるほどである)
「生まれかわるためには死なねばならない」の中で、氏は「肉体的死を回避しつつ、象徴的死を成就することが必要で、ただただ「死」を避けていたのでは何事も成らないのである」
「勇気にもハードとソフトがある」そして優しさにも勇気が必要だと。
「日本的民主主義は創造の芽をつみやすい」丸く収めようとしすぎだと指摘
「物が豊になると子育てが難しくなる」心を使う代わりにお金を使ってはいないか?と指摘
「権力の座は孤独を要求する」権力を有するもの(誰でもそれなりの権力を持つ)の心構えの常識が述べられている。



こころの処方箋 (新潮文庫)
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