図書館本

読み始めて、単なるワイナリー事業の話かと思って諦めかけていた。
ところがである。読み進むに従い、本書は、タイトルのビジネスという文脈からは遥かに深い里山思想が綴られている。
そしてそこに、仕事と稼ぎという、忘れられた日本人のDNAが脈々と受け継がれていることに気がつく。
玉村さんがワイナリーの設立書に書いた一文を備忘録として載せておきたい。
「農業は続けることに意味がある。その土地を絶えず耕して、そこから恵みを受けながら、人も植物も行き続ける。それが農業であり、人間の暮らしである。ワイナリーを中心に地域の人が集い、遠方から人が訪ねて来、そこで作られたワインや野菜や果物を媒介にして人間の輪ができあがる。それが来訪者を癒し、地域の人々を力づけ、双方の生活の質を高めていくことにつながるだろう。ワイナリーじたいはとりたてて大きな利益を生むものではなくても、そうした、農業生産を基盤として地域の永続的な発展と活性化を促すひとつの有効な装置として機能するとすれば、これほど大きな価値を実現できるものは他に類がないと思う」

また現在の農業や山村部の問題点も分かりやすく指摘している。最近読んだ神門善久氏の「日本の食と農」とまさに同じ指摘だと思う。
大規模営農や補助金行政では日本の農は復活しえないのだ。

玉村氏は一生働き続けると言う、そしてそこに常に新しい出会いと発見があり幸せがあるのだと。金と言うテキストを超えた人生がそこに見えるように思った。


里山ビジネス (集英社新書)
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