本が好きプロジェクトからの献本

現在は名古屋大学の教授である井村さんが、これまでの種々な職場での中国との係わりの中で見てきた中国の環境問題を非常に冷静にかつ慎重に論じているとまず感じた。
巨大な国土、14億とも言われる人口、急激な経済発展、そこには既に国家と言う枠を越えた、すなわち国境なき環境問題があると指摘する。そして一つ一つデータを示し、また100回近く訪中した経験を基にデータの解釈をし考察していく。
経済発展を担うのは資源であり、石炭や天然ガスはおおむね自給出来るが、石油に関しては現在の対アフリカ外交を見ても明らかなように急激な需要に答えるためにアフリカの原油権益を確保しつつある。発電のための石炭使用や自動車の増加による窒素酸化物等による大気汚染や酸性雨、工場等からの有害物質による水質汚染はすでに中国国内の問題にとどまらず、日本を含む近隣諸国にもその影響が及んでいる。また森林伐採や耕地拡大による砂漠化から起こるとされる黄砂問題、さらには水不足。
日本における70年代の公害問題がまさに今、中国で起こっているようである。もちろん中国政府が手をこまねいている訳でもない事が本書ではわかる。トップダウン方式で法整備や指導体制を作っているようだ。また円借款による環境対策と本邦との友好的共同事業等もある。しかしながら、経済発展と環境問題の優先順位を考えれば当然経済優先である現状がうかがえる。さらには食糧問題も絡み、農村部と都市部との経済格差の拡大は内政上の大きな問題でもある。
すでに中国の環境問題は国境に関係なく、間違いなく日本への影響もある。日本のこれまでの成功と失敗の経験を中国にいかに的確に示していけるかが東アジア圏発展の大きな鍵になると考えさせられた一冊である。


中国の環境問題 今なにが起きているのか
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書評/ルポルタージュ