図書館本

日本を代表する免疫学者の脳梗塞から右半身不随、言語障害からの「生きる」とは何か、を綴っている。
1934年生まれの多田さんであり、免疫を少しでもかじった人はおそらく全てが名前は知っている。そういうオイラも知っている位だから。
2001年に突然倒れて生死を彷徨う、そしてリハビリを余儀なくされ、左手だけでワープロを操作する。本書の前半部は倒れてから1年ほどの闘病記であり、後半部は種々な媒体に連載した手記でもある。読み出して、まず思ったのは、これほど高名で東大医学部出身、さらには芸術にもその才能がある多田さんが、現状の医療体制に悪口をぶちまけ、特にリハビリに関する日本のレベルの低さをとうとうと語る姿勢である。さらには死の恐怖を綴る。人間の本質は誰もが同じなのであろう。柳澤桂子さんの難病の手記も同じように感じた。逆に言えば、科学者と言うものは理詰めで思考するから、論理的でない文脈を受け入れられ難くしているのかもしれない。
あるいは死と対峙することで生への活力を生み出すのだろうか。
どこか、星野富弘さんの詩画や池田晶子さんの文脈とは異なってみえる。
いずれにせよ、「生」とは何か、「死」とは何かを障害と言う状況の中で思考する姿を包み隠さずさらけ出している。そんな事を「巨人」でもない「弟子」もいない小市民は感じた。

寡黙なる巨人