図書館本

宮本さんの『忘れられた日本人』をもとに4回にわたって行なわれた網野さんの講座の記録
第一講 宮本常一との出会い--民俗語彙の再発見
宮本常一との出会い/宮本常一の中世史像 –清水三男への高い評価/宮本常一の学問/強烈な人格/宮本常一と渋沢敬三/海から日本社会をみる/
東,西日本の文化の差異と「民具」研究の提唱/進捗とは何か?発展とは何か?/「もののけ姫」とアジール/民俗語彙の再発見/善根宿の役割/狂言「かくしだぬぎ」の世界

第二講 女の 「世間」
老人・女性・子ども・遍歴民への着目/現代に生きている歌垣の世堺/中世の参籠は歌垣だった/女性だけの旅/夜遥いという習俗/娘の家出/財布のひもを握る女性/年寄りの役割/隠居の役割/子どもと老人/アジールを描く/遍歴民/名作「土佐源氏」

第三講 東日本と西日本
東は父系、西は母系 家父長制と年齢階梯制/先進・後進というのではなく社会構造の差異 戦後歴史学への疑問/民族の差異が感じられるほど大きい言葉の違い/東と西のちがいの諸相/「東と西の語る日本の歴史」/日本は「孤立した島国」ではない/形質人類学からみた東・西の差異--小浜甚次と埴原和郎/縄文人の形質をよく残すアイヌ人と沖縄人/「倭人」と「日本人」/被差別部落の分布が意味するもの/ 「えな」の処理についての研究がひらいた世界-- 木下忠の仕事/西の天皇、東の将軍/海をわたる交流をさぐる

第四講 「百姓」とは何か
郷里・周防大島/大工の出稼ぎ/祖父と父/世間師の世界/「女の世間」/新しい天地を求めて--対馬・朝鮮/ハワイへの海外移民/多様な集落/江戸時代の周防大島--「防長風土注進案」をよむ/「百姓」は農民にかぎらず/林業・木材の役割の見直しを/遍歴民の世界/文字をもたない伝承者/学問とは?

あとがき


周防大島(すおうおうしま)出身の宮本さんの言葉として
「島に橋がかかるなどということは夢みたいすばらしいことで考えもしなかった、ところが橋がかかったら島の人間はみな島から出ていきよる」
「進歩とは何なんだろうか、これまで自分は発展と言ってきたけれども、発展とは何なのだろうか、進歩という名のもとにわれわれはじつにたくさんのものを切り捨ててきたのではないか」「切り落とされてきたものの中に非常に大事なものがある」
網野さんの感想として
もののけ姫の中のアジールとしての踏鞴場(たたらば)。そこに登場する包帯を巻いたハンセン病の人などの民俗学的に熟考された作品を評価している。
宮本さんですら、百姓=農民という考え方から完全には抜け出せていなかった。と指摘している。

夜這いや歌垣、女性の一人旅などの記述は日本古来からの自由度を伝えているのであろう。そうして、場所は出せないが今でも夜這いの風習が残っている地域があるという。『忘れられた日本人』を読む