図書館本

副題:山村の語る歴史世界
1960年生まれの著者の感性が生き生きと感じられる。
山梨の早川、信州の秋山郷などの調査に基づく山村研究の書。
山村と言う言葉の持つイメージを根本から考え直す端緒を与えてくれます。少なくともバブル時代の前は過疎と言う言葉はそれほど用いられなかったのではないだろうか?逆になぜ過疎と言う現象を日本が作ってしまったかの答えがこの本にはあると思う。
農村から見た視点でのみ語られてきた山村は石高も低く貧しいという固定観念が根付いてしまったと指摘する。また民俗学的研究や考察が優先して、歴史的研究が山村に関して行なわれなかった事も大きな原因だと言い当てる。史料から読み取れる山村は実は自然からの恵みを享受して多様な食文化や歴史を形成していた。さらに隔離された辺鄙な村と言う事はなく、平地との交流や林業職人として出稼ぎに行っていたりする。さらには江戸や京都への木材供給源として現金収入があったり、鉱山があったりと、農村と比べてもより多様な生活があった。鈴木牧之の「秋山紀行」などを引用し山村の捉え方を指摘していて、以前読んだ時の秋山紀行のイメージが一変した。また「山と猟師と焼畑の谷」を引用し山村での労働には苦労と言う意味合いより楽しさと言う意味が大きいとも指摘する。まったく同感である。人間が生きる上での意味を山村と言う現場で働きながら感じることの重要性を認識した素晴らしい書である。

知られざる日本―山村の語る歴史世界