人と知恵がつなぐ:/3 熊本・水俣でハゼ採り ぜいたくな木ろうを抽出 /愛知 - 毎日新聞
魚じゃないハゼなんですね。
以下記事
ハゼから抽出した木ろうを練り溶かし、丁寧に灯芯に1本ずつ塗り乾かす。それを繰り返すことで和ろうそくは仕上がっていく。愛知県岡崎市の和ろうそく職人、松井規有さんの工房では、木ろうが半円の塊となって産地ごとに分けられていた。
その一つ、福岡県みやま市にある荒木製蠟(ろう)の荒木泰宇(やすたか)さんを訪ねた。「ハゼの実を採る方々があっての木ろうです。熊本県水俣市でハゼ採りをやっていますから」と言う。荒木さんと現地で合流することになった。
青々とした水俣湾を望む高台で、緒方新一郎さんが水俣のハゼを守り続けてきた。「ウルシ科だから、かぶれるよ」と言いながら手を休めてくれた。ブドウの房のようにたわわに実った水俣のハゼは日本一の収穫量がある。
270年ほど前に細川藩がハゼを推奨したことがいまに続いているという。緒方さんをはじめ、ご近所の上田末義さんも収穫に忙しい。「1日に200キロも採ったよ!」
麻袋には30〜50キロほどのハゼが入っていて、それをトラックに山積みする。積み込みが終わるとすぐにみやま市に向け出発した。「これでも少なくなったよ。ハゼは高いところに登って採るから、お年寄りには負担でね」
荒木さんの工場では、ハゼがベルトコンベヤーに乗せられ、蒸気で圧力をかけ、ろうを抽出する。その過程は、機械の中を通るので見ることができないが、コックから搾り出された木ろうがドクドクと流れ出てきた。
鉢に流し込まれた熱いろうが冷めれば固まる。それが松井さんの工房にあった、ろうと同じものだった。
灯芯だけを油に浸して火をともしていた話はお年寄りに聞いたことがあるが、それを思えば、ハゼのろうそくはぜいたく品だ。
ろうを抽出した後、大量のハゼの殻が工場内で山積みになっていた。「廃棄するには量が多いですね」と尋ねると、「いや、廃棄はしません。必要とする人がいますから。ハゼは捨てるところがありませんから」
ハゼの殻は、藍染め職人が使うという。しかし、藍染めのどこにハゼの殻を使うというのか。ハゼの殻を追いかけ、藍染め職人の仕事場をのぞいてみようと思った。福岡県八女市の藍染め職人、森山哲浩さんのところにあった。
職種の違う職人同士がつながっていて、そこから、何一つごみが出ていないことにふと気がついた。<大西暢夫>=次回は8月22日掲載
■人物略歴
大西暢夫(おおにし・のぶお)さん
作家、写真家、ドキュメンタリー映画監督。1968年生まれ、岐阜県池田町在住。ダム湖に沈む岐阜県徳山村をテーマにした著作と同名映画の「水になった村」を発表。近著は「ホハレ峠」「お蚕さんから糸と綿と」など。映画「オキナワへいこう」は、自主上映活動が全国で展開されている。